ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
この人と話そう

「驚き」と「気づき」広げたい
ビジネスの手法 福祉に


写真
「障害のあるなしに関係なく、ここが自分の居場所だと思える場所が今は少ないと思う。いい居場所づくりを進めていきたい」(!−factoryで、写真・遠藤基成

!−style 吉野 智和さん
(2010/08/10)



《NPO法人の「!−style(エクスクラメーション・スタイル)」という名称はちょっと変わっていますね》

 びっくりマークは「驚き」と「気づき」です。障害のある人の施設のイメージを一新したいという思いを込めてます。目をひきつける商品やおいしい商品に驚きを感じてもらい、その商品が市場で評価を受けることで、障害のある人の仕事力はこんなにあることに気づいてもらいたいのです。

 「style」はやり方や様式で、障害者福祉は変わらなければならない、といわれますが、障害のある人はまじめに頑張る人がほとんどで、問題は周囲の支援のあり方にあると思うのです。ちゃんとした環境を支援者がつくることで社会にアピールしていきたい。


積極的にアプローチ

《アピールする方法として吉野さんたちは企業との連携を進めています。大手通販会社と提携して陶器の小さな家型スタンプを作って人気を得たり、建築・内装会社と一緒に「昭和タイル工業」というブランドのオーダーメードタイルをつくるなど多彩な陶器製品、それに飲食店向けにその店ならではの味の仕込を支える半調理品の提供もしています。福祉とビジネスというとかつては別世界のイメージがありましたが》

 障害者をビジネスに巻き込むのかという批判を受けることもあります。でも僕たちはビジネスという手法を使っているだけなのです。この手法がみんなの力を広く伝えやすいと考えています。

 よく「企業はお金にならないことはしない」といいますが、僕はお金にならないことをお金に変える力を持っているのが企業だと思っています。企業の中には福祉と連携したビジネスモデルづくりに意欲がある人も多い。そういう人たちに本当に助けてもらったんです。福祉の側から積極的にアプローチしていくべきです。


橋渡しから製作者へ


《まだ福祉施設に勤めていたころから、施設でつくられた製品を市場に出そうと企業を回る営業活動をしていたそうですね》

 最初の疑問は福祉施設で作ったものはなぜバザーでしか売らないのか、もっと評価されていいものも多いのにということでした。で、もうバザーはやめようと決めました。でも販路がありません。そこで百万遍の知恩寺の手づくり市に店を出したんです。

 最初は売れませんでしたが、展示の方法や売り方などの工夫をするうちに、ギャラリーの方やバイヤーさんから声がかかりだして、商品の力は障害のあるなしには関係ないなと…。

 それで自分でデザインしたものを施設で作ってもらいその流通ルートを探して営業に回りました。そこで得た人とのつながりから立ち上げたのが、福祉とビジネスの橋渡しをするプロジェクト「!−style」です。僕たちのNPOの原点です。

 でも大口の注文を得ても納期に間に合わないなどの問題もあって、橋渡しする中間的な支援には限界があります。

 これは自分たちで製作するしかないなと。自分たちの考えていることがちゃんと形になるのだということを、モデルケースとして示したかった。そんな思いから出来たのが八幡市にある「!−factory(エクスクラメーション・ファクトリー)」です。

《吉野さんはよく「普通のことを普通にやっているだけなんです」と言っていますね》

 普通に仕事をこなして、うまい昼飯を食って励まされ、午後も頑張ろうと思う。そんな居場所をつくりたい。施設というと教育とか指導という観点から統率、規制がけっこうあるんですが、みんなで旅行に行けば宴会で酒も飲みますし。

 大人として当たり前に毎日を過ごすことを大切にしていきたいのです。普通にあるにはどうしたらいいか、その視点で足りないところを埋める作業をしていきたい。

《話は変わりますが、吉野さんは高校までアマチュアレスリングをやっていたんですね》

 レスリングで立ち会った瞬間に「勝てる」と思うと勝てるんですよ。振り返ってみると「やれる」と感じたことに向かって走ってきたように思います。レスリングの試合の感覚かもしれません。

 チャンスは置いておいて蓄積することは出来ないんですよ。どんどんやっていかないと思っていることは実現しません。お金もない中でやってきましたが、まずやりたいことを決めてから、走りながら道筋を考え、内容を作ってきたという感じですね。



よしの ともかず
京都育ちの33歳。1997年、ビジネス系専門学校卒後、京都市内の知的障害者授産施設に就職。施設勤務時代に「デザインで変える福祉」をキーワードに、施設製品のデザイン提供活動などを行う。2002年に「!−style」を立ち上げる。06年にNPO法人となり統括マネジャー・副理事長に。07年に障害者就労移行支援施設「!−factory」がオープンし、施設長となる。