ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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きょうとセルフヘルプ支援センター代表
中田智恵海さん(2011/03/15)



《中田さんは京都府と兵庫県のセルフヘルプ支援センター代表を務めています。まずセルフヘルプグループとは何か教えて下さい》

 病気や障害など同じような生活困難や生きづらさを抱える人が集まって、思いを分かち合い支え合って生きる勇気や希望を得たり、社会制度の改善を行政に訴えたりするグループです。障害当事者や介護に携わる人、酒や薬物依存の人など多様で、活動もさまざまです。たとえば「不登校の子どもを持つ親の会」では、公園でボランティアの大学生と、学校に行く子も行かない子も一緒にスポーツを楽しむ活動をするところがあり、またフリースクールやホームスクーリングなどを実践しているところもあります。私はそれらのグループの立ち上げや運営支援をしています。

《中田さんがかかわったきっかけは何ですか》

 専業主婦だった1977年、口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)の子を持つ親の会に携わりました。グループでは、母としてどうケアすればいいのかなど、先輩のお母さん方から、自身で体験した知識など多くのことを学びました。入会は長男の手術後だったのですが、限られた情報しかない中で医療の選択をしたことを反省しました。

《その後、研究者の道に進んだのですね》

 ソーシャルワーク(社会福祉援助技術)を学びましたが、その中にセルフヘルプグループが位置づけられていないことに疑問をもち、社会福祉士などの援助専門職がクライアントにセルフヘルプグループを紹介してくれるよう、論文や学会で言い続けてきました。

《その間にひょうごセルフヘルプ支援センターを立ち上げていますね》

 セルフヘルプグループは良い活動しているのに組織は弱くてつぶれやすい。それが残念で県内で横断的に支援するため2000年に立ち上げました。当初は80団体ほどでしたが今は258団体に増えました。


反応が早い京都

《その後、京都でも支援センターを作るのですね》


「セルフヘルプグループのメンバーは、仲間を援助することによって自分も生き生きと暮らしていくすべを獲得します」(佛教大で、写真・遠藤基成
 05年に佛教大に転職したのを機に着手しましたが京都は反応が早いと感じています。府や京都市の社会福祉協議会も協力的です。府内では今のところ約80団体です。北部など人口の少ない所でも、同じ悩みのある人が5、6人いればつながってほしいですね。人数が少ないと機能が発揮できないわけではありません。むしろ孤立を防ぐために大切なことです。

《グループの運営には苦労もあるかと思います》

 一番の問題は後継者がいないことです。立ち上げの時はリーダーの強い思いがあります。でもつながっていく人は「情報を得たい」「仲間がほしい」というだけの気持ちの人が多いので、負担はリーダーに集中しがちです。

《各グループは活動内容も違うと思います。一緒に集まる意味があるのですか》

 セルフヘルプ支援センターにはリーダーが集まります。社会サービスがないとか、メンバー間の葛藤とか、悩みは共通していますので、リーダー同士が交流して情報を交換し、しんどさを分かち合って元気になって帰ってもらうのは大切な役割です。

《医療関係者などの専門職や役所の仕事と重なる部分もありそうです。かかわりや距離感はどう考えますか》

 グループの大きな目的は、メンバーが自己決定できるように情報提供してエンパワーメントすることです。専門職にお任せになってはいけませんし、専門知識の中でも、自分が必要とするもの、自分に見合ったものを主体的に選びとっていく力を身につけることが大切です。


解決能力高める

 グループの活動は生活困難に対する問題解決能力を高めますし、地域社会に援助のネットワークを築きます。そういう意味で地域福祉を担っています。行政との関係で言えば、私たちが把握したニーズを提言していくことは行政にとっても望ましいことです。

 社会福祉協議会内に事務所を置いたり、助成を受けたりするグループも増えました。この十数年で社会的に認知されてきたからですが、逆に、組織の自立性がそこなわれないか注意が必要ですね。

《中田さんの授業「セルフヘルプ論」は他に類例がないと思います。どんな工夫をしていますか》

 時には、グループの代表に授業で話してもらいます。学生の多くは社会福祉士や精神保健福祉士、保育士を目指していますが、生きづらさを抱えた人はグループを作って積極的に立ち向かっていく力のある人たちだということを知っておいてほしいのです。



なかだ・ちえみ
佛教大社会福祉学部教授(博士・臨床教育学)。1944年、大阪市生まれ、神戸市在住。神戸女学院大卒。関西大大学院博士課程修了。96年、武庫川女子大助教授。2005年から現職。ひょうごセルフヘルプ支援センター代表、きょうとセルフヘルプ支援センター代表。著書に「セルフヘルプグループ―自己再生を志向する援助形態」など。