ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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困難あっても、独特の完成大事に
私だからできる支援志す


写真

発達障害を生きる
笹森理絵さん(2011/04/12)



《笹森さんは発達障害の当事者ですが、日常生活で困ることは多いでしょうね》

 困ることだらけです。気にしないようにしてきたから生きてますけど。お財布からお金を出せない、買ったものがいくらになるかも分からない。鉛筆を持てない。自分の身体像を認識できないのであちこちぶつかったりする。昔はみんなから「ドンくさいなあ」と笑われて。体も痛けりゃ心も痛かったですね。

《子どもの時は何が苦しかったですか》

 算数ができませんでした。国語と社会は人並み以上なのに何でやろ、と悩みました。小学校3年から文章題が入ってくると問題の意味を推論しなきゃいけない。それでできなくなりました。ほかにも、片づけができないし、相手の言いたいことが分からないのも悩みでした。

《相手の言うことが分からないとはどういうことですか》

 たとえば、大学時代に眼鏡屋さんでアルバイトした時、「安いフレームでいいよ」と言われて、本当に安い売り場に案内したら、後で社長から「お客さんは最初はそういう言い方をするんだ」と注意を受けました。言葉と本心が違っていても、私には察することができないのです。

《ほかにも症状はあったのですか》

 発達障害は幅が広いのです。私の場合は落ち着きがなく注意力が散漫過ぎると言われてきました。感覚過敏なので、雑多な音が聞こえ過ぎたり、ぬれたぞうきんがさわれなかったりします。


症状受け入れ楽に

《笹森さん自身が発達障害と分かったのはどういう経過だったのですか》


車やジェットコースターのスピード感が大好きです。夫ともツーリングクラブで知り合いました。(大阪府枚方市の近畿情報高等専修学校=写真・遠藤基成
 結婚して子どもができたのですが、育児に悩んだり、夫やしゅうとめと意思の疎通がうまくいかなかったりと、精神状態は最悪でした。そんなある日手に取った「片付けられない女たち」という本でADHD(注意欠陥・多動性障害)の症例を知り、私とそっくりで驚きました。

 診察を受けるとADHD、学習障害(算数)、アスペルガー症候群、発達性協調運動障害。「こんなにひどいのに何で今まで気がつかへんかったん」と言われました。それでも、過去の私の失敗も努力不足ではなく脳の構造によるものだと分かって、気持ちが楽になりました。

《その後、息子さんも発達障害と診断されるのですね》

 子どもが小さいころは理解できない言動に振り回されました。でも長男が高機能自閉症とADHD、二男がてんかんとADHDと診察されて、一晩大泣きしましたが、分かってホッとしたところもありました。三男は発語が遅れ障害者手帳をもらっています。


個性伸ばしたい

 見ていると長男は1分を80秒ぐらいで生きているのんびり型で、二男、三男はせっかち型。この前私が忘れ物をしたら長男が「お母さん、そういう時もあるよ」。体罰を繰り返していた時には決して言ってくれなかった言葉だと思います。障害を受け入れ支援学級を選択するには夫と一緒に悩みましたが、3人に変われというのではなく、それぞれの個性を伸ばしてやりたいと思っています。

《当事者としてどんな活動をしているのですか》

 発達障害が注目を浴びるようになり、私がどんな思いで生きてきたか知ってもらおうと、NPO法人を通じて講演などをしています。当事者であり、当事者の母でもある私にしかできないことがあると思っています。

《笹森さんは支援者を志して福祉の勉強をしているのですね》

 昔、医師になりたかったのに算数がダメで断念したこともあり、講演などに役立てるため社会福祉学をきちんと学ぼうと思いました。「こんなセオリー通り物事が運んだら苦労はしないよ」と教科書に疑問を持ったこともありますが、やはりセオリーは大事だと思い直し、社会福祉士と精神保健福祉士の資格を目指しています。

《「発達障害で良かった」と思うことはありますか》

 行動力は人の倍くらいありますね。それに独特の感性があります。昔は理科室でホルマリン漬けのビンやアルコールランプの炎を長時間見つめていたこともあり、今は石けんの泡が日に照らされて微妙に輝いているのを写真に撮って、講演で見てもらったりしています。脳の構造は違っていても、そこにはカラフルですてきな世界があるということを知ってほしいですね。




ささもり・りえ
1970年、神戸市生まれ。旧姓・逸見から「へんちゃん」と呼ばれる。一家の生活を描いて2005年、「NHK障害福祉賞」第1部門優秀賞受賞。NPO法人特別支援教育ネットワークがじゅまる理事。著書に「へんちゃんのポジティブライフ」(明石書店)。神戸親和女子大福祉臨床学科精神保健コース通信教育部在学。神戸市在住。