京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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●この人と話そう
大切なのは安心、自由、人との絆 |
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利用者の情報を全員で共有することが在宅ケアには大切です。さまざまな職種のスタッフが毎朝1時間と金曜夜に2時間、ミーティングで知恵を出し合います(京都市中京区・たかぎクリニック=写真・遠藤基成) |
《高木さんが運営するACT―K(アクトK)とはどんな組織ですか》
ACT(Assertive Community Treatment=包括型地域生活支援プログラム)は重症の精神障害で、密接な支援がないと生活しにくい人に、自分が住んでいる場所でそのまま暮らしてもらうための援助です。精神科医、看護師、介護福祉士、作業療法士など医療と福祉のいろいろな職種の人が生活の場に出かけていくのが特徴で、夜間休日を含め365日24時間ケアできる態勢をとります。1970年代にアメリカで始まり、日本では2003年に公文書に登場しました。これを京都でやっているからアクトKと名づけ、主として統合失調症の人を対象にしています。
《これまでの日本の精神科医療と違った方法だと思います。どのような問題意識があって始めたのですか》
日本の精神科では長期の入院治療しかありませんでした。病院の医師や看護師の数が非常に少なくても認められ、実際には治療なしの収容が行われてきました。私が精神科医になった1983年には宇都宮病院事件がありました。スタッフが患者をリンチで殺し、院長も日常的に暴力を振るっていました。私が10年間勤めた精神病院は、開放的で良い病院という評判でしたが、それでも患者をぞんざいに扱ったり時には暴力的になることもありました。施設に収容するとどうしても差別意識が芽生えるようです。
大学病院を退職した後、医学雑誌でアクトを知りました。訪問支援が他の先進国では当たり前になっていることにショックを受け「自分でも作るぞ」と決意しましたが、手探りのスタートでした。
《アクトKの態勢について教えてください》
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「私はふだんタバコは吸いませんが、最近の一方的な禁煙の流れには恐ろしいものを感じておりメディアに出る時はタバコを持つようにしています」 |
《経営的には成り立つのですか》
私がアクトを始めた2004年ごろには、老人医療で「在宅医療を中心とする」という厚生労働省の方針が出ており、精神科でもいずれそうなるのではとの予感はありました。その後、私のところのような24時間対応できる在宅支援診療所には特別加算がつくようになり、経営が成り立つようになりました。
アクトKは「たかぎクリニック」、訪問看護ステーション「ねこのて」、NPO法人「京都メンタルケア・アクション」の3者の組織です。アクトは多職種が必要ですが、精神保健福祉士は訪問看護ステーションでは働けないなど制度的な制約があり、それをカバーし合っています。NPO法人は自前で研究組織を持ちたかったからで、アクトを広げるための全国組織にも参加して一緒にやっていけます。
《精神障害者を支援する態勢でこれから必要なことは何ですか》
就労です。患者は支援があれば就労は可能で、たとえ短時間でも就労によって現実的になれ、症状も改善します。4月から就労移行支援事業を始めたところです。
回復して支援の必要が少なくなった人をケアするシステムも必要です。これがないと、新しい患者さんにいつまでも待ってもらわないといけません。もちろんアクトはもっと要りますね。アクトKにいた医師が昨年秋に京都市南区に新たなアクトを作りました。そのような動きが広がってほしいと思います。
たかぎ・しゅんすけ
1957年、広島県生まれ。83年、京都大医学部卒業。大阪府内の私立精神病院と京都大医学部附属病院精神科にそれぞれ10年間勤務。日本精神神経学会で、精神分裂病の病名変更事業にかかわり「統合失調症」の名称を発案。2002年に正式決定された。04年、京都市中京区にたかぎクリニック開設。著書に「ACT―Kの挑戦」(批評社)、「こころの医療宅配便」(文藝春秋)など。