京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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●この人と話そう
楽しく遊び感覚刺激満たす |
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天井からつり下げたスイングや円筒状のビニールで回転する。「発達障害のある子の多くは感覚刺激が大好き。ここで楽しんでほしいです」(兵庫県姫路市・姫路獨協大プレイルーム) |
《太田さんが発達障害の子どもたちのために行っている、姫路獨協大(兵庫県姫路市)プレイルームの活動について教えてください》
第2、第3土曜日に1時間交替で5グループ計約60人の幼児や児童が集まります。天井からつり下げたスイングや、円筒状のビニールに入って体が回転する感覚を味わったり、多量のプラスチックボールが入ったボールプールの上に飛び降りたりして、思いきり体を動かします。約50種類の遊具を備え大学教員とボランティアの学生、普段は保育士や学校教員をしている研修生ら十数名が付き添います。遊び方を指示するのではなく、子どもたちがやってみたいことを援助する立場で行っています。
《そういった動作は、発達障害のある子どもたちにどんな効果があるのですか》
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《感覚刺激を治療に使うのには、確立した方法があるのですか》
感覚統合療法といいます。動きの感覚が分からない人はどうしてもバランスが悪くなってしまう。そこでトンネルなどの3次元空間を使って、多様な環境に対して感覚を使いこなし身体を適切に動かしていくことを学ぶ療法です。ただ私は療法と言うより楽しみを前面にしているのが特徴と言えば特徴ですね。
また、1970年代にオランダで始まったスヌーズレンという考え方も取り入れています。障害のある人に受け入れやすい感覚刺激に満たされた空間の中で、利用者が自分にとって意味のある活動に携わることです。プレイルームもその実践の一つで、隣室では薄暗い中にベッドやライトを備えリラックスできるようになっています。
《発達障害の研究を始めたのはなぜですか》
発達障害のある子は性格がすごくストレートで私にはつきあいやすい。大人が問題行動と呼んでいるものも彼らには理由があって、分かってくるとおもしろい。それを伝えていくことで子どもたちが少しでも助かるのなら、楽しい仕事だなあと感じました。姫路のFMラジオ局が発達障害児の子育てコミュニケーション番組を発信し、私も出演しています。彼らは表現することが難しいので気持ちを「通訳」して行きたいですね。
《発達障害の特徴を一般の人に理解してもらう工夫もしているのですか》
講演では、自分の体の大きさが分からずあちこちぶつかってしまう感覚を理解してもらおうと、胴体や足に長い棒を何本もつけて歩いてもらったり、たとえば一円玉を五百円など別の貨幣価値に見立ててレジで素早くお金を払ってもらうロールプレイで、計算できない感覚を少しでも知ってもらったりしています。
「かわいそう」と捉えるのでなく、感じ方の違いを知り、どう補っていくか。そういった共感的理解を基盤に支援をするのが私の方針です。発達障害は周囲の理解があればうまくやりこなせる部分が結構大きいのです。
おおた・あつし
1968年、福岡県生まれ。
長崎大医療技術短期大学部卒業。長崎県内の保育園と重症心身障害児施設の勤務を経て広島大医学部助手。2006年春、姫路獨協大に医療保健学部が設置されたのに伴い教授として着任。作業療法士。日本感覚統合学会常任理事。日本スヌーズレン協会理事、事務局担当。感覚刺激を目的とした手軽なおもちゃを販売する「プレイフルネス」を個人事業として行っている。