ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
この人と話そう

障害あっても映画の楽しみを
字幕と副音声で理解共有


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映画の副音声を付けるために集まった京都リップルのメンバー。セリフをたどりながら登場人物の心情などについて意見を出し合う(京都市北区・京都ライトハウス、写真・遠藤基成)

京都リップル代表
深田麗美さん(2011/08/16)



《深田さんは京都リップルというボランティア団体の代表を務めています。京都リップルとはどんな団体で、なぜ立ち上げたかを教えてください》

 立ち上げは2003年春、同志社大学の学生だった時です。私は聴覚障害の当事者ですが、同志社には障害があっても一般の学生と同じように授業が受けられる「障がい学生支援制度」がありました。しかし、他の大学には適切なサポートを受けるシステムがないところもあり、自分たちでそれを補おうとさまざまな大学から約20人が集まりました。初めは聴覚障害者のためにビデオ教材に字幕を付けたり、障害のある学生と支援者の学生の交流活動を行ったりしてきました。

《今もそういった活動を続けているのですか》

 いいえ。各大学で支援態勢が行き渡る一方で、私も卒業の時期を迎えました。でもせっかくボランティアを始めたので、何かの形で継続したいと母に相談しました。母は聴覚言語障害センター(京都市中京区)でビデオに字幕をつけていたので、それをヒントに映画に字幕と副音声をつける活動を始めました。今のメンバー約20人は社会人が中心です。

《字幕と副音声は必ず両方付けるのですか》

 視覚障害、聴覚障害の両方の人に見てほしいのでそれが原則ですが、字幕はすでに付いている映画があり、その場合は副音声だけ付けます。月に2、3回スタッフが京都ライトハウス(北区)に集まり、DVDを見ながらやりとりします。微妙なニュアンスを理解し、限られた字数で表現しなければいけないので骨が折れます。一つの作品で約1カ月かかります。



分かりやすいと好評

《字幕や副音声を付けた映画はどういう形で上映するのですか》


 そういった映画を上映することを「バリアフリー上映」と言います。ハートピア京都(中京区)や京都市役所、各区役所などで上映会をしてもらいます。

 交通事故や病気で中途失明、中途失聴した人の中には、聞こえていた、見えていた時に好きだった映画鑑賞から遠ざかった人がたくさんいます。耳が遠くなったり、目が見えにくくなるお年寄りも増えました。そんな人は「理解しやすい」と楽しみにしてくれています。聞きにくいセリフが字幕で確認できると、健常者にも好評です。



深く温かい作品選ぶ

《これまで「おくりびと」や「おとうと」など話題の映画の上映会をしています。字幕や副音声をつける映画はどうやって選ぶのですか》

 企画の段階から携わる場合は、見る人の心を揺さぶる「深い」映画、やさしい気持ちにしてくれる温かな映画を選びます。

 ハートピア京都では07年6月の「武士の一分」を皮切りに9回上映会を行いました。京都シネマでは05年3月から、ロードショー公開中に2〜3カ月に1回、バリアフリー上映をします。03年11月からこれまで100本以上行っていますが、幕切れに自然と起きる拍手が継続への力になります。

《深田さん自身は字幕が担当ですか》

 字幕づくりのアドバイスはしますが、京都リップルではもう一つの柱として講演活動も行っており、私はそちらが中心です。上映会で、障害者にとって字幕や副音声の大切さを分かってもらうためのスピーチをします。小中高や大学、会社などから依頼があれば、私や他の障害当事者が行って話します。

《講演ではどんな話をするのですか》

 私は、目が見えない、耳が聞こえないといっても、走るのが速いか遅いかの違いのようなもので、それ以外は健常者と何も変わりがないと考えています。障害があっても健常者と同じく、学んだり、働いたり、共に楽しめるようになればいいと思っており、講演でもそれを強調します。

《他にやってみたいことはありますか》

 プラネタリウムで星座の説明用の字幕が完成し、見てもらえる運びになりました。美術館や博物館に行くのが好きなので、今後は展示品を紹介するフィルムに字幕を付けるなど活動の幅を広げていきたいですね。


ふかだ・れみ
1980年生まれ 京都市出身。
生後すぐ髄膜炎にかかり、その後聴覚を失う。静岡県の「母と子の教室」に通い発音や発声、口話のほか生き方についても学ぶ。京都府立山城高を経て2004年、同志社大経済学部卒。06年から同大学学生支援課で「障がい学生支援コーディネーター」を務める。08年春から同大学経理課勤務。母の美知子さん(61)も京都リップルの中心メンバー。