ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
この人と話そう

美容がツール がん患者ケア
髪・メイク・・・闘病の支えに


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男性がん患者の言葉に耳を傾ける。「皆さん、お互いの体験を熱心に聞き合いながら、前向きに、楽しそうにしておられました」(京都市中京区・京町家さいりん館室町二条)

ハッピービューティープロジェクト代表

三田果菜さん(2011/11/15)



《三田さんは、がん患者や家族の心のケアに取り組んでいます。具体的にはどんな事業をしているのですか》

 美容をツールに、がん患者さんの外見面をサポートしています。自毛(じもう)のカットやウィッグ(かつら)の準備。まゆ毛やまつ毛などのメイク。帽子などの便利グッズの販売も行っています。

《今の事業に取り組む目的は何ですか》

 がんそのものはもちろんですが、抗がん剤や放射線治療の副作用で脱毛や外見の変化が生じることは、女性にとって非常につらいことです。闘病中であっても美しく楽しく過ごすことができれば生活の質も上がり、気持ちも前向きになることができるので、そのお手伝いをしたいと思っています。ネットや口コミで知って訪ねて来て下さる方が多く、若い患者さんもいて病院では聞けないような個人的な悩みも相談して下さいます。



治療の間も生活が

《近年はがん患者が増えているので、三田さんの事業の必要性が高いですね》

 はい。昔のようにがんは「死ぬ病気」でなくなりました。半面、女性が40代でり患したとすれば、後半生を再発の不安と戦いながら生きることになり、そのためのケアが必要です。もちろん抗がん剤投与が終了すれば髪の毛は生えてくるのですが、それまでの1年か2年の治療の間にも一人一人の仕事や生活はあるわけですから。

《病院ではそういうサポートはしないのですか》

 病院はまず治療に専念しなければならず、看護師さんらも日々の仕事で大忙しです。患者さんにとって相談はできても支援を受けることまでは難しいのではないでしょうか。ただ患者さん自ら情報収集するなど大変な作業を強いられている現実を考えれば、みんなが一緒にできる仕組みづくりが欠かせません。

 この4月から、医療従事者や患者団体、がんサロンなどでつくる京都府がん患者団体等連絡協議会という会の役員に就任しました。行政も交えて、みんなで京都の、そしてがん患者さんとご家族のQOL(Qualityof Life=生活の質)を上げていきたいです。



若者、男性の集いも

《がん患者や家族の集いも開いているのですか》


 今年1月からは親ががんになった若者の集いを京都と大阪で、10月には男性がん患者の集いを開催しました。相談を受けたのがきっかけで、集いの場が多岐に渡って必要と分かり、仲間とボランティアで企画しました。特に男性の会では皆さんとても快活に話をされて「また集まりたいね」とおっしゃしってました。

 もちろん、これからも必要な場を必要なだけ提供できる存在でいたいと思っています。

《三田さんの人生の中で、がん患者の心のケアを思い立った発端は何ですか》

 私は両親が理美容師の家に育ちました。高校時代に身近な人ががんになった時に、美容術の心得のない家庭の方だとどんなに大変だろう、と問題意識を持ったのが発端です。その後、大学時代・大学院時代にイベントなど企画を立てる経験を積ませていただきました。大学院の研究コースは「社会のお医者さん」を育成することが目的で、私も起業やさまざまなコーディネートの方法について学び、今の仕事に生かしています。

《三田さん自身も起業したのですね》

 2007年7月に「美容術で女性とまちを元気に」のコンセプトでネイル講座を始め10月に美容師資格を取りました。修士論文を書く際に「本当に美容術が必要なのはがん患者さん」との考え方が自分の中で具体化し09年10月ごろから今の事業の準備を始めました。

《今後はどんな展開を考えていますか》

 近くがん患者さんらのための美容院を開きます。脱毛期から再建期の患者さんは、ウィッグや自毛のケアが必要でも、どうしても普通の美容室に行きづらく感じてしまいます。でも外見を整えることは女性として必ずしたいことですから。一緒に活動してくれる美容師さんも探しているところです。

 これからも「問題を解決するために私にできることは何なのか」を考えながら、患者さんのニーズがあるところには活動の幅を広げていきたいと思っています。

さんだ・かな
1983年生まれ。京都市中京区出身、長岡京市在住。
高校時代にカナダ留学。同志社女子大英文科を経て同志社大大学院総合政策科学研究科ソーシャル・イノベーション研究コース博士後期課程在学。2007年10月、美容師国家資格取得。山野流着物着付け講師。第7回京都学生人間力大賞グランプリ受賞。築90年の家を手直しした「京町家さいりん館室町二条」を拠点とする。烏丸御池(京都市中京区)にがん患者らのための情報窓口やサロンを兼ねた美容院を計画している。