ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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障害ある子にスポーツの楽しみ
体の自信が生活に好影響

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リングの上を反復横跳びしながら、森嶋さんが示す指の数を生徒が答える。二つのことを同時にできるようになるためのトレーニングだ(大阪市中央区、NPO法人チットチャット)

NPO法人チットチャット理事長
森嶋勉さん(2012/02/14)


《森嶋さんが運動の指導をしている発達障害の子には、どんな体の不具合があるのですか》

 もうそれはいろいろです。右半身と左半身が別人のような動き方だったり、赤ちゃんのような手足をしていたり、目がちゃんと動かなかったり、ジャンプができなかったり、まっすぐのラインの上を歩けなかったり・・・。

 外見では分かりにくいのですが、運動させてみるとアンバランスで不器用で、明らかにこの体では生きにくいだろうと感じます。

《なぜ、そういう子の指導をしているのですか》

 今、彼らに対しては認知療育が優先されています。それはそれで必要なことですが、問題は体がコミュニケーションを知らないことです。ある高機能自閉症の子とバレーボールをしましたが、ラリーを続けようとしないで好きなように打つんです。

 たとえば社会性を身につけることなど、認知という一番高等なものを要求するにしても、まず土台の部分である体の動かし方を教えるのが先決だと思うのです。

《どんな指導をするのですか》

 ここにはバランスボール、フラフープ、平均台など約20種類の器具がありますが、まず子どもにその日やりたいものを選ばせて、それを使った遊びのバリエーションの中から適切なものを私が提案します。初めて来て不安な子がだんだん順応してくれるのも、自分の興味で器具を選べるからでしょうね。



少し上を目指す

《成果が上がるまで時間がかかるものですか》

 全然かかりません。学校での体育は彼らにとってレベルが高過ぎるので、運動を敬遠してしまうことが多いのです。ここでは今の能力より少し上を目指すので、彼らも「これくらいだったらできるな」と感じてくれて、1カ月に1回程度の運動でも体が変わってきます。逆に言うと、簡単に変われるほど未熟で未開発だったということですね。

 標準に近づくのは無理かもしれませんが、その子に合った体の扱い方はできるようになります。


《体が動くようになると、生活習慣も変わりますか》

 はい。よく遊ぶようになったとか、公園に行くようになったとか、前にはできなかったような遊び道具を使うようになったとかいう話はお母さん方からよく聞きます。体の自信が生活の中で良いほうにリンクしているのでしょうね。

 スポーツには先を見通す力、工夫する力が必要でそれがついてくると同じ失敗はしなくなります。生活面でも頑張る力や折り合いをつける力につながり、人間関係も上手になりますね。

《なぜ障害者スポーツの指導を志したのですか》

 私が出た大学は福祉系でしたが、ゼミの実習で初めて現場に触れて興味を覚えました。大阪市内のスポーツセンターにUターン就職して指導員になったのですが、周りは体育系大学の出身者ばかりでした。その中で自分なりの専門を生かそうと思ったのが一つ。もう一つは、スポーツはみんなのものですから、どんな人でもその醍醐味を知ってほしいと思ったことです。

《その後、独立するのですね》

 指導現場に立つことが少なくなったことから、自分の力を試したいと思い、NPO法人を母体に今の仕事を始めました。今は月約50人、10グループを指導します。時には講演に出かけますし、当時やりたいと思っていたことがすべて実現できています。



「どや顔」が好き

《森嶋さんが指導する上での楽しみは何ですか》

 これまでできなかったことができた時、子どもたちが「できた顔」をするのです。今で言う「どや顔」ですね。それを見るのが好きなのと、その時にお母さんお父さんもすごく喜ぶのです。

 学校は規則が多いから、障害のある子どもたちにはしんどい場所です。また統制が利かないので逸脱行動をしたり周囲に迷惑かけたりもします。すると、「またこんな悪いことしました」と学校の先生から言われて、多くのお母さんはへとへとなのです。でもここで頑張っている子どもの姿を見て「うちの子はやれるんや」と確認して帰ってくれます。そんなこともうれしいですね。

もりしま つとむ
1963年生まれ、東大阪市出身。85年、日本福祉大(愛知県)卒業。
大阪市の長居、舞洲両スポーツセンターで障害者スポーツ指導員として約20年間勤務。2006年に独立し、大阪市中央区のNPO法人チットチャット副理事長。その後理事長に就任。
著書に「発達障がい児の脳と感覚を育てるかんたん運動」(合同出版)がある。