京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
|
●この人と話そう
男性介護者の集える拠点を作る
|
|
「『苦しいのは自分一人ではない』と分かればその日を生きる勇気は得られます」。男性介護者らの集いで講演(2011年9月3日、京都市右京区の大覚寺) |
《津止さんが男性介護者の問題に取り組むようになった経緯を教えて下さい》
京都市の社会福祉協議会にいたころから、介護者の生の声を聞いてきました。2001年の立命館大学赴任後に参加した研究会では、仲間の多くが義父や妻の世話、自分の脳梗塞など介護したりされたりしており驚きました。 実は私は当時、男性介護者の登場をポジティブ(肯定的)に評価していました。主に女性が介護していた時代には当然視された問題が社会化されるのではないか。家族だからやって当然というのでなく、介護サービスを利用しながら介護生活を送れる支援が実現すればいい。まあそんな思いでした。
《ところが肯定的に捉えきれなくなったのですか》
はい。03年と06年の調査で分かったのが老老介護の実態です。3人以下の家族がほとんどで、介護者に何かあれば共倒れしかねない。介護離職が調査対象の2割を超え、自身の体調不良を訴える人もかなりおられました。
もう一つの大きな問題が家事援助。今増えている男性介護者は若くもないし体力もない。専念できる時間もない。家族の形態が変わったのに、介護保険の制度では「同居家族がするべき」と旧態依然の考え方で、十分な支援がありません。だから多くの苦痛の叫び、困難の極みがあるんじゃないかと実感します。
|
《特に男性の場合は就労との両立が大切ですね》
これまで、男性は介護や育児をしないものとみなされてきました。しかし、40、50代の男性が仕事一筋では立ちゆかなくなったときに、どう定年まで仕事の場を保証していくのか。24時間介護漬けにされないようなサービスがあるのかとか、そのあたりが今問われています。
《企業などで具体的な取り組みは始まってますか》
土日や夜間を組み込んだシフトの中で介護者の勤務時間を調整しているサービス業や、短時間勤務を必要なくなるまで選択できる制度を導入したメーカーも報道されています。
男性が休業するとキャリアは中断されるし社会的な合意もまだ低い。けれども介護休業などの制度を使いながら社業と両立させている実態が明らかになれば、一つのモデルとして世間に受容される時代が来るだろうと思います。それは介護で離職しなくてもいい社会モデルです。
《そのためにどんな活動をしているのですか》
今、「ケアメンプロジェクト」を提案しています。育児をする男性を「イクメン」に対して介護する男性を「ケアメン」と呼ぶことで、つらくて、きたなくて、できれば避けたいものだという考え方から脱却し、人間らしい生活行為であるとか、豊かな人生を送れるというメッセージにつなげたいのです。
そこで男性の介護体験を社会の共有財産にしようと考えています。学校や職場で広く取り組んでいけば男性介護者の抱える問題点がより明らかになると思い、第4回の介護体験記の原稿を募集しているところです。
つどめ・まさとし
1953年、鹿児島県生まれ。
立命館大学大学院社会学研究科修士課程修了。京都市社会福祉協議会(地域福祉部長、ボランティア情報センター長)を経て2001年から立命館大産業社会学部教授。09年3月に「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」を発足させ事務局長。著書に「男性介護者白書―家族介護者支援への提言」「ボランティアの臨床社会学―あいまいさに潜む『未来』」など。