ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
この人と話そう

お年寄りの「心の命」対話で元気に
ボランティアも学び多く

「りすの会」主宰
大矢治世さん(2012/05/15)


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「元気な脳でいるためには会話や気配りが大切、リハビリだと思って人の集まる場に出かけてください」。ラジオ収録を兼ねた「おしゃべりサロン」で参加者と交流する(3月28日、東山いきいき市民活動センター)
《「りすの会」とはどういう会ですか》

 京都市内の独居のお年寄りの自宅を訪問し、話し相手をして孤独と不安を癒やす活動をするボランティア団体です。英語の「聴く(listen)」から「りすの会」と名付けました。

《設立のきっかけは何ですか》

 私が内科医として往診に当たってきた経験からです。独居のお年寄りのほとんどは、病気以外に孤独や寂しさを抱えて暮らしておられます。それは薬では治せません。往診のときに病気や薬の話より、昔元気だったころの話を聴いてあげると、皆さん生き生きとされるのです。

 しかし往診ではかけられる時間に限りがありますから、ボランティアでゆっくりお話する時間を作ってあげようと思ったのです。2010年4月に活動を始め2年になります。



独居以外も対象に

《対象は独居の人だけですか》

 原則はそうですが、昼間だけ独居の人、家族との対話の少ない人も対象にします。家族では、思い出話をすでに何度も聞いていて「またその話か。耳にたこができたわ」と、うとまれることもよくありますから。

《そういう対象となるお年寄りは、どうやって募るのですか》

 ケアマネジャーさんに紹介してもらっています。同時に把握しておられる生活情報を提供してもらいます。ボランティアが対象の方と会う前に、たとえば転倒しやすいとか、耳が遠いとかいう情報を事前に知っておくと訪問したときに備えができます。

 個人的には受け付けていません。


《体にもよい影響があるのですか》

 人の命には「体の命」と「心の命」があります。「体の命」は加齢とともに限界があり、多くのお年寄りは現状維持が精いっぱい、というのが現実です。そこで限界のない「心の命」を元気にして体の限界を吹き飛ばそうという発想が必要で、それに基づいた活動です。私は薬や検査を中心とする医療と区別する意味で、“医良”と表現しています。

《会のボランティアの人は具体的にどんな活動をするのですか》

 2人以上の複数で、原則として月2回、自宅を訪ねます。複数で行くのは体調の急変時などに対応するためです。それと、複数で行くほうが話がはずみますから。聴くだけでなくこちらから話題を提供したり、普通の世間話をしたり、ゲームや歌を歌ったり・・・。時間は特に決めていませんが、だいたい1時間ほど話をしますね。

 いわゆる傾聴ではなく「元気が出る対話ボランティア」と呼んでいます。

《ボランティアの方にとってはどんな意味があるのですか》

 お年寄りに「話し相手がいる」という楽しみを持ってもらい「心の健康」を取り戻してもらえます。それは同時にボランティアの喜びでもあります。「逆に元気をもらった」「話の内容が大変勉強になった」などのプラスの感想を寄せてくれます。

《ボランティアになる人はどんな人ですか》

 民生委員や老人福祉委員などそれまでから高齢者支援に携わってこられた人、看護師などの医療関係者、サラリーマンや学生、主婦などさまざまです。3月末で登録会員は36人で、平均年齢は64歳。共通しているのは人と話すのが大好きと言うことです。



楽しいから続く

《対話のボランティアは珍しい試みだと思いますが、介護保険などの対象になりますか》

 まったくの対象外です。ですからお年寄りの家に行く交通費もボランティアが自分で払います。それでも楽しいから続くのでしょうね。無理に続けてもらわなくてすむよう、年度末にいったん解散して、4月に集まったメンバーで活動を開始するのですが、多くの人は継続してくれるので助かります。

《今後はどんな展開を考えていますか》

 現在、利用しているお年寄りは20人です。確実に増えてきているのでボランティアをしてくれる人を求めています。特に医療、保健、福祉系の学生さんに参加してほしいですね。そうすれば▽お年寄りの暮らしぶりが分かる▽福祉、介護のあり方が学べる▽昔の時代の文化的背景の一端を知ることができる▽話を聴き理解する態度が身につく-など、学ぶことは大きいと思います。

おおや はるよ
1951年生まれ。南丹市美山町出身。
内科医、医学博士。京都工芸繊維大学大学院修士課程を修了後、地域医療に関心をもち、32歳で医学を志す。香川医科大医学部(現・香川大医学部)を卒業後、同医科大で教育と研究に携わる。故郷の美山町の診療所に勤務した後、現在は京都市上京区の出町診療所(内科)、大津市の琵琶湖大橋病院(訪問診療科)などで勤務。そのかたわら地域に密着した医療福祉情報番組「京都医療福祉ラジオ」(NPO京都コミュニティ放送)の制作委員長、パーソナリティー。
原則として毎月第1土曜に「りすの会」=ファクス専用075(495)6215=の交流会を行い、新たなボランティア希望者を募っている。