ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
この人と話そう

「思い込み」捨て、ただ座る
人本来の力を発揮する禅

天正寺住職
佐々木奘堂さん(2012/07/10)


写真
座禅をする佐々木さん。ヨガや呼吸法、古代ギリシャ彫刻などを通じて、正しい座禅のあり方を追求してきた(大阪市天王寺区・天正寺)
《佐々木さんの活動の原点となった禅との出会いから教えて下さい》

 東京大に理系で入学しましたが、そのころから宗教や禅に関心がありました。大学1年の時に、当時京都大におられた河合隼雄先生(元文化庁長官・故人)の「宗教と科学の接点」という本に感動して、どうしても河合先生のもとで学びたいと思い、大学院は京大に入学し、臨床心理学・カウンセリングを学びました。京都では、禅の修行を積んだ大学の先生(上田閑照先生)に出会ったこともあり、実際に自分も禅修行をしようと、臨済宗相国寺派の専門道場に通い始めました。

《その後本格的に修行生活に入ったんですか》

 大学院5年終えた後、有馬頼底老師(現相国寺派管長)の弟子となり、2年間と期限を決めて、頭を丸め、道場で修行しました。その後、京大に戻り、助手を勤めました。京都に来た当初の目的通り、臨床心理学をできる限り学び、その方面で人の役に立ちたいと思っていましたから。


「我執」の問題

《ところが完全に出家したのですね》

 私のカウンセリングの先生である河合先生が、宗教や仏教に関心・造詣が深かったこともあり、臨床心理学の根本にある問題と、禅や宗教の問題が深く関連していることを、ますます強く感じるようになってきました。

《具体的にはどんな問題ですか》

 一言でいうと、「思い込み」の問題で、要するに「自分が思い込んでしまっていると、そう見えてしまう」ので、問題に気づかないということです。それと重なって、「俺を何様だと思っているんだ!」というような妙なプライドの問題です。これは、相談者だけでなく、カウンセラー側も共に抱えている大問題だと思います。この思い込みプラス妙なプライドを「我執」と仏教では呼び、根本の問題としています。私としては、出家して、この根本問題に取り組んでいくことが、自分にとって必要だし、結果的には臨床心理学の分野の人のためにもなりうるのでは、と思い、出家修行することに決めました。


《その中でどうして体の使い方に取り組むようになったのですか》

 禅宗ですし、ちゃんとした座禅をしたいと思って探求しました。座禅においても、先ほど言った「我執」というのが根本問題で、妙な思い込みの中で座禅していて、気づいていない場合がほとんどです。よくあるのが、「まっすぐ」にこだわり、胸に力を入れてしまっていたり、「腰を立てよう」として、かえって腰を悪くしてしまったり。座っていて足がしびれてしまうようなのは、生き物としてアウトでしょう。実は私も「正しい座禅」を追求していると思いながら、ぎっくり腰になったり、両膝を悪くもしたり、錯誤に錯誤を重ねてきました。ヨガやいろいろな呼吸法を習ってみたり、ただ座る姿勢の見本である古代ギリシャ彫刻を研究したりして、ようやく「すべての作為を捨てて、ただ座る」ことに気づいた感じです。


「何々流」は無い

《佐々木さん流の体の使い方というのは》

 佐々木流というのはありません。「ただ座る」ことには、別にインド流も日本流もないと思います。座るというのは、お尻の骨(座骨)が床につき、足も上体も解放されることです。頭が重いので、重力や骨にしたがい、頭が真上にきます。「何々流」というのを捨てて、本当に我執を超えたはたらきに全身全霊をまかせきっていく道があることを、はっきり確信しました。思い込みを捨てて、本来もっている力を発揮していく道があり、それが禅の道です。

《天正寺にはどういう縁で来たのですか》

 前の住職が亡くなって、次の住職を探している寺でした。場所も便利ですし、禅の教えや、ただ座ることを伝え、人と共に行じていこうと、2010年12月から住職をしています。

《佐々木さんの活動全般について教えて下さい》

 寺としての一番の活動は座禅会です。天正寺のほか、東京都や茨城県でも開いています。他にも、依頼や縁があれば、自分にできる限りのことをやっていきたいと思っています。昨春は大阪大で臨床心理学と禅で非常勤講師をしましたし、今秋からは相愛大(大阪市)で「身体論」という授業を行うことになっています。他にも、関西カウンセリングセンターで「禅とカウンセリング」の講座をもったり、不登校問題を考えるNPO法人のスタッフも務めています。

ささき じょうどう
1966年生まれ。茨城県出身。
東京大で村上陽一郎教授に師事して科学論を専攻。京都大大学院で臨床心理学を学ぶ。
得度して相国寺で修行の後、京大に戻り助手などを勤める。現在、大阪市天王寺区の臨済宗天正寺住職。「奘堂」の名は玄奘三蔵の一字をとって有馬頼底相国寺管長が付けた。
著書に「心の秘密〜フロイトの夢と悲しみ」(2002年、新曜社)。山歩き、音楽、彫刻鑑賞が趣味。