ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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買い物の困難、支える障害者
移動販売、サービス提供が自信に

「ぎょうれつ本舗」担当
田村 きよ美さん(2013/06/11)


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販売を終え商品を片付ける「ぎょうれつ本舗」のメンバー。「最初からきちんとしたものを目指そう」との方針から、黄色いユニホームと緑ののぼりをトレードマークにしている(高島市朽木栃生)
《田村さんが行う「ぎょうれつ本舗」ではどんなことをしているのですか》

 近くに店がなく買い物に不便を感じる人がいる集落へ、車3〜5台で行列を組んで食料や日用品を売りに行きます。運転は職員ですが、販売の主力は障害のある人です。

《始めるきっかけは何だったのですか》

 私が勤務する社会福祉法人「虹の会」は高島市内に「ドリーム」「アイリス」「大地」という三つの障害者就労支援事業所を運営しており、さまざまな作業を行います。私がいた「ドリーム」ではパンやお菓子を作っていました。でも焼きたてを買える人は近くに限られるので、こちらから遠方に出て顧客を増やしたいと思ったことです。

 そこで滋賀県内の他の障害者就労支援事業所と一緒に移動販売の勉強会を始めました。誰もが地域の中で当たり前に働き、普通に暮らせる社会を目指して、2011年春から準備して、秋に「ぎょうれつ本舗」を立ち上げました。名前は、売るほうも買うほうも行列ができれば、との願いから決めました。

 当初は大津の事業所と協力し、相互に出向いていたのですが、今年から分かれて活動することになり、今は高島市だけ回っています。市域は滋賀県西北部の広い地域を占めますが、5コースに分け、月に1、2回ずつ通います。

《今はずいぶん多くの品目を売っていますね》

 はい。販売を始めてみると、高齢だったり車がなかったりで、買い物の困難な人がいる集落が思った以上に多いことが分かりました。お客さんから「あれないか、これないか」と聞かれるので、アイリスやドリームの自主製品だけでなく一般の商品も扱うようになり、昨年夏には冷凍や冷蔵の設備も備えて扱う種類を増やしました。肉、魚、牛乳はまだ無理ですが、お総菜や日用品など約30品目を取り扱います。事前に注文を聞いて届けることもしています。


客同士で会話も

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《買い物に来るのはどんな人ですか》

 高齢の女性が多いです。独居や老夫婦だけの人のほか、4世代が集まってくれる集落もあります。買い物に来た方が、我々との会話を楽しんでくれたり、お客様同士で昔の井戸端会議のように盛り上がったり。そんな時には、コミュニティーを支える役割を果たしていると実感できます。

《障害のある人にとって販売員をすることで、よい影響はあるのですか》

 障害のある人は、時間をかけて習得していく方が多いので、5年先、10年先を見据えて力を付けていくのが目的ですが、販売の現場では自分が必要とされていることが、分かりやすいです。「また来てね」「助かるわ」と言われることで自信が持てるようになりました。今までサービスを受ける側だった人たちが、「ぎょうれつ本舗」ではサービスを提供する側に変わるのです。販売員以外にもかやくご飯を炊いたり総菜を作ったり、洗車やユニホームの洗濯などの幅広い仕事が必要になりますので、得意分野を生かして働いておられます。


自立へ付加価値

《採算はとれているのですか》

 移動にかかる経費を上乗せせず、市価で販売するので利ざやは少ないです。ただ、高島市の協働提案事業に応募したところ、高い評価で採択され、12、13年度は市の補助金を受けられるようになり、事業費の一部に充てています。

 市からは区長を紹介してもらったり地域の事情を教えてもらったりと、財政的支援以外にも協力してもらっています。課題は、補助事業でなくなるときにどうやって自立するのか。必要としてくれる人がいるので続けたいのですが、そのための事業収入を上げるのにはどうしたらいいか考えています。

《具体的なアイデアはありますか》

 困りごとでできる事があればお手伝いさせてもらい、どうしようもないことは市に伝えるのが一つの役割です。さらには商品を届けたときに高齢者の安否確認につなげたいですね。今では遠方の息子さんや娘さんに写真や映像にして送ったりできますから。本年度中に実現できないかと考えています。高島市は雪が多いので冬には販売員のほか雪かきの要員も同乗して、地域の役に立ったりとか。そういう付加価値をつけながら「ぎょうれつ本舗」の将来的な自立につなげたいです。

 障害のある人の一般就労につなぐところまではいっていませんが、将来的に実現できるといいですね。


たむら・きよみ
1959年、滋賀県朽木村(現・高島市)生まれ。
安曇川高を経て81年、愛知県の中京女子大体育学部卒。帰郷して結婚、子育ての後、小学校の臨時教員を約8年務める。障害児学級の子と一緒に勉強したことが契機となり97年4月に社会福祉法人「虹の会」の職員募集に応募。「アイリス」「ドリーム」各施設長を経て2013年から「虹の会」統括施設長兼アイリス副施設長。
「ぎょうれつ本舗」の事務局はアイリス TEL0740(25)5315