ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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退院後の療養、チームで知恵
家庭での生活が生きる力を取り戻す

在宅ケア移行支援研究所主宰
宇都宮宏子さん(2013/07/16)


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認知症医療の多職種連携についても強い関心を持つ宇都宮さん。この日は「京都式認知症ケアを考えるつどい」のポストセミナーでパネリストとして発言した(6月16日、京都市下京区)
《宇都宮さんは長年、病院に入院している患者を家に帰す「退院支援」「退院調整」に取り組んできました。そのきっかけは何ですか》

 約30年前に父をがんで亡くしました。告知してなかったので、入院中に残された時間が少ないことも知らなかったと思います。父自身の人生なのに、思い通りの最期を全うできなかったのではないか…。ずっと自分に問いかけてきました。

 看護師として高松市の病院と京都市山科区の洛和会で訪問看護を約12年務めました。そこで病院から在宅への流れがスムーズでなく患者が家に帰れない現実を非常に強く感じました。退院時に、何らかの支援が必要と思い、2002年から約10年、京大病院で退院調整看護師として勤務するようになりました。


患者の思い尊重

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《患者が病院にいるより家に帰ったほうがいいのはどうしてですか》

 実際に入院された方は分かると思います。患者は「治る」という思いから我慢しているので、生活する場所ではありません。逆に、入院中は依存的だった人が家に帰ると「家長」や「主婦」に戻ります。高齢の方や認知の問題がある方は、表情も特に変わります。普通の生活が生きる力を取り戻す。時に薬や注射よりも力を持っています。

《退院支援、退院調整はどのように行うのですか》

 退院支援は多職種でチームを組んで行います。病院では主治医、病棟の看護師から依頼を受けて、退院調整看護師や医療ソーシャルワーカー(MSW)がけん引し、リハビリスタッフ、緩和ケア担当者、栄養士らが入ります。地域からはケアマネジャー、かかりつけ医、地域包括支援センターや訪問看護ステーション職員など。患者さんの状況により、メンバーも変化します。大事な事は、本人と家族が中心にいることです。

 京都では、多くの病院で、患者が入院した時から、病棟の看護師を中心に入院目的や退院時の予想をして、支援について話し合います。患者自身の思いを大事に、でも病気や老いによる変化を知ってもらって、自律への手助けが必要な場合は社会保険制度や社会資源につなぐ。いわゆる退院調整を行います。

 京都が進んでいると思う点は、ケアマネジャーや地域包括支援センターの人が自分の担当する療養者が入院すると、病院に情報を提供してくれることです。例えば「この人は昔、華道の先生だったのですよ」といった情報が与えられると、救急車で搬送された目の前の患者さんに対して、生活者としてのイメージが病院スタッフの中で形成できるのです。退院支援の入り口として大事なことです。


人生を再構築

《病院で完治できないまま帰る場合もあるのですか》

 はい。完治する病気の方が少ないです。がんも糖尿病や高血圧症も、ずっと付き合っていく病気です。脳梗塞で運ばれた人が歩けない状態で帰ることもあります。でも、今までの人生とは違っても、病気とか障害を抱えながら生き直すことをお手伝いするのが私たちの役割です。それは人生の再構築のための支援だと思います。

《患者を引き取る家族にとって大変なことだと思います。具体的にどのように話し合うのですか》

 在宅医療、かかりつけの医師に家に来てもらう方法や訪問看護、介護のサポート、デイサービス、ヘルパー利用などを提案し、「もう一度家で暮らせるようにしませんか」と、一緒に考えます。「住まい」は自宅だけではありません。特別養護老人ホームやケア付き住宅を探す場合もあります。

《退院を促すのは「病院の採算が目的ではないか」といった批判もあるようですが》

 ベッドを空けて、治療が必要な人を受け入れる態勢を整えておくのも急性期病院の役割です。地域へ果たす務めの一つは、救命治療ですから。

《今後求められる医療は何だと思いますか》

 これからは4、5人に1人は認知症になる時代。自分で物事が決められない状況で、身体合併症を患ったらどうすればいいか。家族につらい判断をさせないためにも「老いや病気と向き合って自分はどう生きたいか。どこで人生を終わりたいか」を皆さん一人一人にも考えてほしいです。

 私は、ちょっとした体のこと、医師に聞くほどのことではないけれど相談できる「かかりつけ看護師」を持ちましょう、と勧めています。一度、診療所や病院の看護師、近くの訪問看護ステーションに声をかけてみてください。


うつのみや・ひろこ
1959年、福井県生まれ。80年、京都大医療技術短期大学部看護学科卒。
看護師として高松市などで勤務の後、93年、京都市山科区の洛和会音羽病院に。2002年、京大病院に移り「退院調整看護師」として活動。その間、厚生労働省のもとで退院調整看護師の養成プログラム作成などに加わる。12年4月に独立し「在宅ケア移行支援研究所宇都宮宏子事務所」を立ち上げ、各地の病院の指導研修や講演活動を行う。