京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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●この人と話そう
一人を大事にする社会に
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ハルハウスで昼食を取り、談笑する人たち(京都市北区紫野) |
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《名古屋のご出身ですが、京都との縁は何でしたか》
「私は生まれた時はすごく体が弱く小中学校で一度も運動会に出られないくらいでした。腎臓病や関節リウマチなどの病気を克服して看護師となり、30年以上勤務しました。がんセンター、小児専門病院、精神科病院にそれぞれ10年勤務しました。脳外科も経験しています。そこで、人間のありようを見つめてきました。そして看護師職を退職したのち、佛教大学から要請があって福祉学部の教授を9年間務めました。これが京都とのご縁です。その前に名古屋の自宅を改築して『クニハウス』を立ち上げました。誰もが立ち寄れる『まちの縁側』を作りたかったのです。そして数年後に縁があった京都で『ハルハウス』を開設しました。現代社会は孤立する人を生む社会であり、弱い人が押しやられる社会でもあります。だから、そういう人たちがほっこりできる場が必要なのです」
《さまざまな人々を励まして解決に向けて協力や助言をされてこられましたね》
「言えるのは、現代社会は病んでいるということです。食の乱れがあり、性の乱れもあります。地域での人間関係も希薄化していますし、家庭でのしつけも放棄されています。家庭の中での人間関係も揺らいでいます。家庭が居場所でなくなると、子どもは健全には成長できません。生体のリズムに応じた生活のリズムを作ることが難しい世の中だけに、生活のリズムが失われると、さまざまな問題が生じてしまうのです」
《そういう中で引きこもり、不登校のほか、うつ病などの精神的な疾患も出て来るとお考えですか》
「ストレスが強く、人間中心で組み立てられていないのが現代社会です。だからアルコール依存や薬物依存、性依存などに陥りがちとなる人も少なくないのです。こうした状況に対し、残念ながら、現在は『事後医療』、『事後福祉』となっています。病気が出てから治療を始める、問題が出てから福祉を行うというものです。そこには予防という観念が希薄ですし、その対策も弱いと思います。専門家中心で物事が回っており、解決に向けて一番大切な、悩みを持つ当事者や家族中心となっていません。日本における精神医療一つとっても非常に遅れています。まだ19世紀という感じですね。だから一人一人が大事にされる世の中に直したいという気持ちが強くあります」
《今後こうしたいということはありますか》
「人生では生きる力をつける、これが大事なのです。どんな状況にあっても依存していてはいけませんし、それを許すのは本人のためにもなりません。孤立して居場所がなかったり、話し相手が欲しかったり、家族の悩みを聞いてほしかったり、いろいろあるでしょう。そういう方たちがほっこりできる場所として、ここの運営をなんとか続けて行きたいですね。私は人のためではなく自分自身のためにやっています。人のためなんておこがましいです。私を支えてくれるボランティアがこの京都でも育っています。うれしいことです。金欠病ではありますが、和やかにしなやかに頑張っていきたいですね。地域に『美田』を残したいと思いますし、まだ公表できませんが、私には夢があります。やりたいことがあるんですよ」
にわ・くにこ
1939年名古屋市生まれ。日本福祉大学大学院社会福祉学専攻修士課程修了。
精神科病院、新生児センターなどに看護師として勤務。99年に名古屋市でボランティア仲間と多目的福祉施設「クニハウス」を開設。2003年に京都市北区に「ハルハウス」を開設。
2001年から09年まで佛教大学社会福祉学部教授。「専門的介護支援」(アリスト)、「現代医療ソーシャルワーカー論」(法律文化社、共著)、「コミュニティー物語」(アリスト、訳)など。
取材を終えて
素敵な女性というのはこういう人を言うのだろう。さわやかな笑顔に思いやりの心、物事の本質を見抜く力を持っている。決断力や実行力もあるし、地域に根付いて頑張っている。これからも、その行動力と発想に注目し期待したい。(田中敏夫)