京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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●この人と話そう
経験積んで生きる力を
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さまざまな活動を通して一層の生きる力を身につける利用者(京都市北区・プエルタ) |
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《訓練にはいろいろな工夫がされていますね。それに飽きないようにと変化もあります》
「1キロはどれくらいの距離なのか、これを体感しようと、真夏でしたが、100mのひもを作ってみんなで鴨川の堤防に出かけました。100mずつ下がり、それを10回繰り返しました。みんな、しっかりと1キロという長さを体感できました。科学実験の時間で小さな熱気球を作って実験した時は、みんな目を輝かせていました。イメージを持ちにくい人も多いので、具体的にいろいろ経験することで不安が減り、一歩、踏み出しやすくなります。こうしてちょっと前進する、ちょっと自信を持つ、少しずつ友達や外部の人とコミュニケーション力をつけることが社会に出てから大いに役立つのです」
《福祉の道に入られたきっかけは何でしたか》
私は静岡県生まれで大学が京都でした。そのあと、知り合いから紹介され障害者福祉の世界に入りました。療育現場や就労支援施設などに勤めるうちに、自立訓練施設が必要だと痛切に感じたのです。またわが子に障害があり、学校の授業終了後に過ごせる学童保育やデイサービスなどの放課後保障の問題に取り組んでいたことも後押ししました。そうして自分でやってみようという思いが募り、当時から協力していただいていた京都教育大や佛教大、立命館大の先生らの支援や関係ご家族の熱い後押しも受けて、青年期の学びの場としてNPO法人「プエルタ」を2012年1月に設立しました。さらにその2カ月後、障害者総合福祉法に基づく「障害者自立訓練(生活訓練)事業プエルタ」を開設できたのです。この道に進んで間違いなかったと思っています」
《新しい施設もお考えのようですね。今後の抱負を聞かせてください》
「たくさんの人とのつながりで事業ができているのは本当にうれしいことです。まず学校などを出た後の若者にもっと利用してほしいと呼びかけたいですね。今、通所者も受け付けています。仕事に就く前にここでさまざまな体験をして、たくましくなって社会に出てほしいと思うからです。それと今、この施設と併設の形で就労施設を作りたいと考えています。そこでは働くということだけでなく学ぶこともできるようなものをイメージしています。3年以内には実現したいですね。もうひとつですが、障害のある人はやはり選択肢がいつも少ないのです。福祉は『措置』から『契約』へ移り、『自己選択』や『自己決定』が言われてきていますが、選択肢がなければ、絵に描いた餅になってしまいます。これを是正していく取り組みも進めていかねばと思っています」
つむら・けいこ
1962年静岡県生まれ。社会福祉士。
医療関係などの仕事を経て、91年より京都市内で障害者福祉に携わる。その間、障害のある子どもが放課後に過ごせる場を保障することなどを目指し立命館大学の教授らと2001年「京都障害児放課後ネットワーク」設立、事務局長を務める。その後、12年春に「障害者自立訓練事業プエルタ」(TEL075-366-3174)を開設。施設長兼理事長。共編著「障害児放課後白書」(クリエイツかもがわ刊)。
取材を終えて
人に対するやさしい思いが自然に感じとれる人だ。一方で、実践の中からこうしたいという気持ちが募り、決断し実行していく芯(しん)の強さがある。そのいちずな思いにひかれて支援者が、このしなやかな人の周りに集まり、多様な活動や訓練を支えている。(田中敏夫)