京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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●HOPE 乳がんとの闘い がんと就労
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がん患者就労環境改善モデル事業のコマツナ種まきに参加した櫻井さん(徳島県阿南市) |
がんの治療は、数カ月単位でなく何年にもおよびますので経済的負担は大きな問題です。私の場合、保険適用治療の3割自己負担と手術の高額療養助成を合わせて、5年間で300万円を超えました。交通費を入れるとさらに加算されていきます。
それでも、抗がん剤治療や保険適用外治療をしていませんので安いほうだと思います。体力と健康に自信のあった私は、医療保険をかけていませんでしたので貯金を崩さないと治療の継続はできませんでした。
当時、リーマン・ショックで会社を整理した夫は体勢を立て直していた矢先のことで、体が元気ならなんとかなると夫婦で頑張っていた時の罹患(りかん)でした。想定外でしたのは、体質なのか強く出た副作用の症状を治療するために他科受診をしなくてはいけなくなったことでした。症状と向き合うのが精いっぱいで、早期の社会復帰は望めませんでした。
そして、罹患から5年を前にした今年2月にようやく就職活動を始めました。治療費は自分で働いて払いたい、出産以外ずっと働いてきたので社会復帰をしたいと思っていました。求職は厳しく、年齢と副作用の兼ね合いで職種を絞らないといけなかったこと、闘病中のがん患者であることの三重ハードルは高く、面接の最後に「お大事に」と言われて何社も落ちました。
就職は無理かもしれないと落ち込む私を励ましてくれたのは、愛知県に住むリレーフォーライフ仲間でした。同じく就労で苦労をした彼は「姉さん、がん患者を理解して雇ってもらえるところは必ずあるから頑張って。がん患者ということを隠さず、これからも正直に言ったほうがいいよ」と言われました。
彼の言葉がなければ、闘病中のがん患者であることを正直に言い続けられなかったと思います。そして、彼の言葉通り理解ある高齢者施設の職場と出会いました。初めての業種で介護資格もない私に「お互いさまですから、しんどい時は言ってください」と、言葉をかけてもらいました。
仕事は宿直専従なので、闘病体験が利用者さんに寄り添うことにとても役立ちました。体が思うように動かないつらさ、夜の孤独、自分はどうなっていくのかという不安、ときに手足を温めながらお話を聞く時間は短くても、「今ここ」のぬくもりがふれあい、ともにいることをうれしく勤めています。
闘病中の就業は、職場の理解がとても大切で治療計画にも影響がでてきます。職場で理不尽な思いをした友達も、理解ある職場に勤める友達もいます。2人に一人ががんになると言われる時代、がんと就労は切実な施策とともに雇用側の理解の推進も望むところです。
徳島県のがん友達は、県のがん患者就労環境改善モデル事業としてコマツナを栽培して流通販売をしています。種まきのお手伝いに参加させていただいたときに、作物を育てるのは手間がかかるけどかわいいと満願の笑顔で話をされていました。
闘病中でも、仕事や趣味や園芸など自分の興味や体力にあった活動をしていくことは、がんとともに生きる力となると思います。