京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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●結縁 ひきこもりから社会へ(3)
自分に自信を持てる場を福島 美枝子さん
「就職し、自立すること」ー。何とか引きこもりから脱出した若者にとって、これが大変な課題だということは誰もが知っている。だからこそ、本人と親たちの願いは切実だ。
いつからか、恒河沙(ごうがしゃ)のみなが考えるようになったのは、「チーム恒河沙」としてさまざまな仕事を請け負い、メンバーはそれぞれの得意なことを仕事にし、全体として責任のある仕事をする、それぞれが苦手とすることは出来る者がカバーする、というシステム。それぞれが外の世界の職場に入って行って自らを適合させるのではなく、『恒河沙』自体が“事業主体”となり、その中で会社も自分たちも発展していく道だ。 いまはまだ一歩を踏み出したばかり。「チーム恒河沙」を軌道に乗せるために力を貸してくれているのは、医療・福祉施設建設関連会社(京都市左京区)の社長、中嶋一浩さんをはじめ、“恒河沙サポーター”のみなさんだ。 真司君のお母さんから電話がかかってきた。 「真司は今日、体調がいいのか、『恒河沙に行ってみようかな』と言っています」 「早く来てください。ちょうど今、みんなでチラシ作りに追われているところです」 真司君は40分後、自転車でやって来た。早速、作業に加わる。このようにして、「チーム恒河沙」の1日が始まる。決して無理はしないが、みんなの力でゆとりを持って注文をこなしていく。 北山病院名誉院長の谷直介さんとみんなが話をした。そのメンバーの一人、智也君が谷さんと話すことになった。 谷さん いま困っていることは何かな。 智也君 朝出かけるまでがつらいんです。仕事や約束があると、予定の時間が気になって、それが体の不調になって出て来る。電車で立っているのがしんどく、途中下車したこともあります。 谷さん 何か思い当たることは。 智也君 高校時代にいじめられたのが原因かも。四人がかりで殴られたこともありました。 谷さん 時間に余裕を持って家を出るように出来ないかな。 智也君 出掛けるのは、どうしてもぎりぎりの時間になってしまう。一度働き出したら、途中でしんどくなることはめったにない。でも、毎日はしんどい。一日おき、週3日の今のペースは結構合っていると思います。 谷さん 今は楽しく幸せに暮らしてる? 智也君 幸せと言えば、幸せだし… 谷さん あなたの場合、今のリズムで生活出来ていればいいと思うよ。体調がいいときは出掛けたり、仕事をする。悪いときは休む。少しずつ連続して動けるようにな?ていったらいい。 智也君 頑張れ、と言われたらしんどいんです。 谷さん 社会とのつながりというのが大事なんで、そのためには、まず家から出ること。「出られた、よかった」という思いを持つことが次につながるんです。 智也君 これまでは、何かに遠慮して縮こまっていたような気がします。先生と話をして、もう少し堂々としていてもいいのかなという気がしてきました。 今日の恒河沙の若者たちは晴れやかだ。 恒河沙の若者たちの笑い声が聞こえる。 今日は恒河沙のお給料日だ。 (利用者の名前は仮名です)
1952年長崎県生まれ。99年まで大津市の中学校に勤務。同年に退職後、京都、滋賀において青少年の自立支援のための活動を行う。現在、NPO法人恒河沙などの理事長。著書「本音を聞く力」(角川書店)。精神保健福祉士。安養寺坊守。
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