ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。


家庭的養育を目指して

児童養護施設・積慶園理事長、園長
古村 正さん


職員と談笑する古村園長(京都市西京区・積慶園)
 私が福祉の世界に入ったのは父の影響が大きかったですね。父は役所勤めをしていましたが、病気になって仏門に入りました。その仏門の先生が京都へ赴任することになり、父も京都へ引っ越したのです。これが私と京都との縁です。このあと、父は仏門の先生から終戦後の戦災孤児を助けるようにと言われ、行政の支援もあって孤児収容施設の運営をまかされたのです。

 学生時代、すでに父は児童養護施設の積慶園を設立しており、よく手伝ったものです。大学卒業後は京都市役所に入り、生活保護のケースワーカーとして働き、その後、中京区などの福祉事務所の所長などをしました。27年間、京都市職員として福祉業務に携わったわけですが、福祉を必要とする人たちにどう対応していくのか。福祉行政の現場で学んだことは多いですね。その際、一番心がけたのは「平等、公平」ということでした。現場にいますと、いろいろな圧力がかかることもありますし、すごいけんまくで怒鳴り込んで来られる方もいます。そこで動揺してはいけないということです。

 市役所を退職したのは、積慶園を運営していた父が病気になったためでした。53歳の時に園長に就任し現在に至っています。

 就任当時の積慶園は児童養護施設と乳児院だけでしたが、現在では地域小規模児童養護施設「ゆう・あいホーム」、市から運営を委託されている児童館が三カ所、特別養護の山科積慶園があります。山科積慶園は、行政から積極的な働きかけがあって決断したものです。

 職員とともに作った信条があります。「諸事に徹し不動を貫く」「社会人として礼儀と節度を培う」「善行を積み社会に奉仕する」「自然と人の恵みを識りこの世に生を享けた事を歓び感謝する」というものです。大切にしています。

 一方、施設の運営面では人材不足があります。大学生に実習に来てもらってますが、この道に入ろうという人が意外に少ないのです。また特養では徹夜の宿直業務がいやだと言ってやめられる方もいます。人材確保がひとつの課題と言えるかもしれません。児童のグループホームも今の制度では少人数の職員で運営せよとなっていますが、現実にはとても無理です。それに当園でも家庭的な養育を目指して少年対象のグループホームの強化・新設などを考えていきたいものです。これからも子どもたち、お年寄りの幸せを願って活動をしていきたいと思いますし、命の続く限り、天から与えられたこの道を歩み続けたいと思っています。



ふるむら ただし
1932年佐賀県生まれ。55年同志社大学文学部社会学科卒業後、積慶園指導員。58年から京都市役所職員。中京区の福祉事務所長などを歴任。85年に退職し、積慶園園長。現在に至る。その間、京都市児童養護施設長会会長などを務める。2013年に瑞宝双光章を受章。