ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。


陶器作りなど自立を支援

信楽青年寮施設長
上田 清樹さん



陶器制作に取り組む寮生と話す上田施設長=左から2人目(滋賀県甲賀市信楽町)
 信楽青年寮は、障がい者福祉の分野で先駆的な活動をされた池田太郎先生が創設されたものです。今から約60年前のことです。池田先生は障がいを持っていても地域の中へ溶け込んで働き暮らすべきだという信念を持っておられ、それを実践されました。今でこそ障がい者の就労が盛んに言われますが、その当時はそんなことを言う人は本当に少なかったのです。

 私は生まれも育ちも信楽です。叔父が信楽青年寮に関係する一方、福祉施設も運営しており、よく遊びに行っていました。大学を卒業し民間企業に就職する予定だったのですが、その時に池田先生に声をかけられ、この寮にお世話になったのが始まりです。

 それからもう34年がたちました。早いものです。池田先生や諸先輩方の背中を眺めながら、障がいのある人にどう接するべきか、一人ひとりに対して何をどう支援するべきかを学んできました。

 今日までやって来られたのは、日々、筋書きのないドラマの連続に右往左往しながらも、知的障がい者の人たちと接して寄り添うことが何より楽しかったからだと思います。それに職員さん、町内の協力者の皆さんのおかげです。

 現在の信楽青年寮しん・らくの総定員数は80人です。知的障がい者の方の能力はさまざまです。一人ひとりに出来ること、出来ないことがあります。それは私たちと同じです。そこを理解し、利用者の方が出来るだけ自立できるように支えたいと常に考えています。

 創設当初は、青年寮と名付けられたように利用者の方たちは皆さん若かったのです。多くの方がここで陶器づくりを学び、町内の陶器屋さんへ勤めておられました。好景気の時は利用者の約3分の2にも上りました。

 そうした方たちも年齢を重ねられ、今は60歳以上の方が非常に増えました。そうなると、医療の問題が起こってきました。今の最大の課題は、利用者の医療面での支援、整備をどう展開していくかということになります。ここにお医者さんが常駐していただければいいのですが、財政面や制度的にもそうはいきません。

 ここの利用者はやはり地域の中でいろいろな人と交流しながら楽しく安心して暮らしたいと望んでいます。すべての人たち一人ひとりが違うことをお互いが認め合う社会、障がいをもつ人たちの思いを理解し、優しく受け止められる社会を少しでも早く実現したいものです。



うえだ せいき
1958年生まれ。
80年大学卒業後、信楽青年寮に作業指導員として就職。99年事務長、2005年施設長に就任。社会福祉法人・しがらき会常務理事。滋賀県児童成人福祉施設協議会会長。滋賀県知的ハンディをもつ人の福祉協会副会長。