ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

高次能機能障害者支えて

一般社団法人「もっと笑顔」代表理事
牧 圭子さん




会員に語りかける牧さん(右から3人目、京都市西京区)
 今から十八年前のことになります。私の娘が福井県小浜市で友人の車の助手席に乗って事故に遭い、生死の境をさまよう脳挫傷になりました。ショックで言葉を失いました。泊まり込みで介護を続け、娘が少しでも良くなるようにとリハビリや治療の情報を得たくて奔走しました。

 娘は半年後に意識を回復しましたが、大きな後遺症が残りました。この過程で高次脳機能障害者の家族や支援者らと知り合うことができました。娘の介護を続けながら、困っておられる障害者やご家族の支援などに取り組むようになったのです。

 高次脳機能障害というのは、交通事故などによる脳の損傷や脳疾患による機能損傷によってさまざまな障害が出ることをさします。たとえば、言葉が出にくい、記憶がしにくい、感情をコントロールしにくいなどの症状が出て、その結果、自立して生活できないケースに陥ることになります。見た目には普通の人と変わることがなく「見えにくい障害」とも言われます。

 世間一般の人々の理解を深めてもらうのはもちろん、高次脳機能障害者とその家族が力強く生きて行けるように現状を変えていく努力が必要と思います。そのために関係者が情報交換し力を合わせる一方、障害者の居場所づくりをめざそうと活動してきたのです。当初は高次脳機能障害という言葉さえほとんど使われなかったのですが、徐々に理解が進んできたかなと思います。

 今は京都市西京区の洛西センタービルの「もっと笑顔」(生活訓練事業所)を拠点に活動しています。利用者は15人で若い人が3分の1、60歳以上の方も3分の1おられます。毎週月曜日から金曜日まで開いていて、料理講習やペーパークラフトなどの創作、音楽鑑賞、脳トレーニング、パソコンや習字などを楽しく行っています。

 居場所のない人や関係する情報を求めている人々の憩いの場にもなっています。将来的には音楽療法も取り入れたいと考えています。

 高次脳機能障害の症状は多様です。失われた機能は戻りませんが、残っている機能のケアや訓練を通じてその人の個性やその人らしさを引き出して自立に向けて進むことが大切です。これからの人生を心豊かに過ごせる環境を望みたいですね。そのためにも、一生を通じての支援が必要なのです。これまでご家族やスタッフ、行政関係者らに恵まれてやってきました。合言葉は「あなたの元気はわたしの元気」です。いい言葉と受け止めています。これからも体が続く限り頑張りたいですね。


まき・けいこ
1947年京都市生まれ。
2008年「頭部外傷や病気による後遺症をもつ若者と家族の会」京都支部長。09年「つくしの会」設立、のちNPO法人化し理事長に就任。13年、同理事長辞任。京都市西京区に「一般社団法人・もっと笑顔」設立。京都府障害者施策推進協議会委員、同高次脳機能障害アクションプラン検討委員。京都市障害者相談員。67歳。