ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

「生涯地域居住」を目指す

社会福祉法人 健光園理事長
小國 英夫さん




職員と語り合う小國英夫理事長=右から3人目(京都市右京区嵯峨柳田町)
 健光園は京都市内の10カ所で福祉施設を展開しています。創立の地は右京区の大覚寺の門前です。私のおじ、おば、母親が養老施設を開設しました。そこから時代のニーズが高まるなか、嵯峨・嵐山と伏見桃山を二大拠点にして施設がつくられてきました。

 メーンの事業は特別養護老人ホームなどの高齢者福祉施設と在宅介護ですが、2000年度からは児童館も運営しており、地域におけるすべての世代の福祉ニーズに取り組んでいます。職員総数は非常勤の方も含めると約600人になります。

 振り返ると、私が10歳の時に母親らが施設の運営を始めたのですが、当時の主な職員は施設内に住み込んでいました。小さい頃からのこうした環境が私をこの道に進ませたと思います。大学を卒業して病院のケースワーカーとして働いていました。

 ところが、27歳の時に健光園の理事長と施設長という大黒柱のお二人が相次いで急逝され、私が引き継ぐことになったのです。全国最年少の理事長・施設長でした。この分野の事情を少しは分かっていると思っていたのですが、運営責任者ともなればまた話は違います。無我夢中、悪戦苦闘しながらやってきました。一時は赤字運営が続き大変でしたし、厚生省(当時)からも叱られました。でも、さまざまな方から支援をいただき乗り切ることができました。

 そして51歳の時に施設長をやめて大学教員になりました。以後22年間、四つの大学で高齢者福祉や地域福祉の研究と教育に従事しました。福祉施設を外から見るということで大いに勉強になりました。その間も健光園の理事はずっと続けておりましたが、4年前に再び理事長になりました。実は戻るとは考えていませんでした。

 ところで今、介護保険は大きな課題を抱えています。立法の精神からどんどんかけ離れてきているのです。制度が非常に複雑になり、利用者や家族らの当事者はとても主体的にサービスを活用できる状況ではありません。これでは立法の精神である自立支援や尊厳が完全に無視されているとしか言えません。

 この大きな流れを何とか変えていきたいですね。大事なのはその人らしい暮らしが地域でできることです。これを私は「生涯地域居住」と言っていますが、この実現を目指したいのです。これは今の仕事中心社会ではできないことです。会社人間ばかりでは地域社会は成り立ちません。人と人との人間的で多様なつながりを大事にした地域社会の実現が福祉社会のベースになります。難しいことですが、そういうところから福祉を考え実践していくことが必要な時代なのです。


おぐに・ひでお
1938年京都市生まれ。
61年関西学院大卒業、堀川病院勤務。66年健光園理事長・施設長。90年愛知県立大文学部社会福祉学科教授。2002年京都光華女子大教授。09年関西福祉大大学院教授。11年健光園理事長。「新・高齢者福祉概論」など福祉分野の著書多数。76歳。