ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
来た道 行く道

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

障害者の詩と出会う


演歌歌手、「福祉歌謡」歌手

網野 ひとみさん




「福祉歌謡」の歌い方を指導する網野ひとみさん(京都市上京区一条通御前西入ル・アミノ歌謡教室)
 「福祉歌謡」という新しいジャンルを提唱しています。愛、尊敬、感謝をテーマにした詩に、歌いやすいメロディーをつけています。優しい気持ちになり、元気を出してほしいとの願いを込めています。分かりやすい歌詞に流れるようなメロディーラインは歌の基本を学ぶにももってこいだと思っています。

 今、歌手として活動していることが不思議に感じます。小学3年生の時、ピアノと歌を習っていました。先生から「ピアノだけにすれば」と言われました。喉の調子が悪かったので気遣ってくれたのですが、それを私は「歌は下手」と言われたのだと勘違いしてしまいました。それがトラウマになり、ずっと人前で声を出すことに自信を失っていました。

 そんな状態だったので、歌手とも全く縁のない京都地方法務局で働いていました。11年間勤め、退職して時間に余裕ができたので、「せめて、みんなのように歌えるようになりたい」と歌の教室に通い始めました。やっぱり、歌が好きだったのですね。どんどん、歌うことが楽しくてしかたなくなりました。知人の紹介で作曲家からレッスンを受けるようになっていました。

 指導を受けた作曲家に勧められるまま、あれよあれよと、1995年にビクターレコードから「越前しぐれ宿」「あなた愛を」で演歌歌手としてデビューしました。法務局では人権擁護の担当をしたこともあったのですが、このころは福祉についてあまり意識はしていませんでした。98年に歌手活動としてテレビ収録で訪れた草津市の障害者の作業所で「給料はほんのわずか」「商品を作っても販売する場所がない」など、厳しい現状を知りました。そして、働いていた重度障害者がつづった詩に出会いました。「紅葉の静かな美しさが あなたの人生を物語る秋 あなたが私を育てて 幸せだったでしょうか 私はあなたの子供で 幸せでした…」。素直な思いが込められたこの詩に曲をつけ、私が歌い広めようと思いました。

 翌年には作曲家に依頼し、自費でテープ1000本を制作して「福祉歌謡」を提唱しました。2002年にバップレコードから福祉歌謡「ありがとう愛を」を全国発売しました。歌を通して、福祉に目を向けてもらいたいとの思いです。この間、手話も交えて歌いたいと勉強を始めました。これまでに福祉歌謡はCD17曲にまでなり、レパートリーとしてステージやテレビなどで紹介しています。

 今年11月20日には、京都市中京区のハートピア京都で2回目となる「手話歌コンサート」を開きます。さらに来年1、3、6月に福祉歌謡を通して歌の上達を促す「手話歌講座」も計画しています。福祉歌謡というと気難しく感じるかもしれませんが、「優しい気持ちを持つことの大切さが伝われば」と明るく歌っています。


あみの・ひとみ
本名・網野清子。京都市上京区出身。1995年歌手デビュー。
99年「福祉歌謡」を提唱。福祉歌謡17曲もレパートリー。
ステージ、手話歌講師、講演活動など多彩。