ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

伝えられぬ思いを作品に


社会福祉法人「椎の木会」理事長

山下 陽一さん




親子で遊んだり、お年寄りの会話が弾むまちの縁側「とねりこの家」(京都市上京区一条通新町西入ル元真如堂町)
 知的障害者が生活する障害者支援施設「落穂(おちほ)寮」(湖南市)を運営しています。施設居住者が創作したダイナミズムにあふれた絵画や陶芸作品を多くの人に知ってもらおうと、京都、滋賀の20施設ほどが合同で開いている造形展の継続的な開催に力を入れています。

 大学卒業とともに落穂寮に児童指導員として就職しました。学生時代は高校教師を目指して、教育学を専攻していました。恩師の紹介で、滋賀県内の障害者支援施設を見学して、初めて知的障害者を身近に感じました。大学の先輩もいたことから、この寮に決めました。職員として、食事、トイレ、日中の作業など、居住者と朝から晩まで一緒に過ごします。知的障害者にとっては「一日は毎日が違う」ということに心掛けました。毎日、同じことをしているのはよくありません。生活や気持ちに刺激があるように外に連れ出すなど工夫しました。現在、寮には約50人が居住、4人が通所しています。

 今も続いている造形展は、「土と色 ひびきあう世界」というタイトルです。各施設が個別に作品展を開いていましたが、1981年に合同開催にしました。2年に1回ほど開き、99年に10回を迎えました。節目でもあることなどから、その後、一時、途絶えていました。そのころ、落穂寮の施設長を務めており、復活開催を各施設や支援団体などに働き掛けました。けん引役の実行委員長として、2006年に、現在の名称に改称して第11回を開くことにこぎ着けました。知的障害者はものの見方が独特です。字を書くことが苦手だったり、算数ができなくても、別の世界で生きていることを伝えたいとの思いでいっぱいでした。人への感情表現がうまくなくても、作品には自分の思いが詰まっています。

 障害児教育の先駆者である故田村一二さんがおっしゃっていた「二つ一つ」が好きな言葉です。一見矛盾していることや対立していることも包み込もうということだと思っています。それは心の持ち方次第です。

 プライベートで、9月に欧州旅行に出掛け、念願だったポーランドのアウシュビッツ強制収容所やオーストリアのウィーン郊外の精神障害者芸術村グギングなどを見学してきました。思いは複雑です。芸術村では作品に非常に関心を持ちました。

 これからも造形展の継続にお役に立てればと思っています。子どものころは母親から「ユニークな行動が目立つ」とよく言われていました。そのせいか分かりません、いろんな楽器に挑戦しました。今はチェロがもっとうまくなればと頑張っています。

 造形展は、第16回として、今年も11月22日から27日まで京都市美術館で開かれます。粘土作品約300点、絵画約100点が出展されます。喧噪(けんそう)に満ちた現代社会において「ほっとする作品」に触れてください。


やました・よういち 
1947年広島県呉市生まれ。大谷大文学部卒業。73年障害者支援施設「落穂寮」に就職。92年落穂寮施設長に就任。2008年から社会福祉法人「椎(しい)の木会」理事長。09年度京都新聞大賞福祉賞を受賞。湖南市在住。