ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
来た道 行く道

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

農作業で就労を支援

社会福祉法人深緑会 深草福祉農園施設長
小竹 健一さん




利用者と一緒にシイタケ栽培に使用する原木を運ぶ小竹さん(伏見区深草大亀谷の深草福祉農園)
 知的障害のある子が卒業後、ちゃんと仕事をして生活できているだろうか。特別支援学校の教員生活を30年近く続け、いつも気がかりでした。そんな思いもあって定年退職後、共同作業所「深草福祉農園」(京都市伏見区深草)を引き受けました。

 福島県会津若松市に生まれました。実家の向かいに盲ろう学校の寄宿舎があり、よくテレビを見せてもらいに行ったり、生徒が実家に遊びにきたりしていました。それが原風景で、障害のある人に何の違和感もありませんでした。大学卒業後、京都教育大附属養護学校(現・特別支援学校)の教員を志望した際、母親から「それは良いことだ」と背中を押され、抵抗なく障害児教育に入っていけました。

 障害児教育では、一人ひとりの指導法に工夫が必要です。子どもたちの発達段階がそれぞれ異なりますから一律では教えられません。もちろん学習指導要領に基づいた教育ですが、この分野は「指導要領に準じた」学習が許されます。言い換えれば、あまり指導要領にとらわれない教育ができます。創意工夫が生かせることに強い興味を覚えました。

 しかし、「卒業後のこと」が頭から離れませんでした。企業や作業所などを訪問して卒業生の仕事ぶりを確かめに行ったことも度々。京都教育大附属の支援学校だから、学区とは関係なく「入りたい」と志望して子どもたちは入学してきています。果たして、その思いに沿った教育ができただろうか。今も引きずっています。

 深草福祉農園には18歳以上の利用者19人が通所しています。最年長は47歳。企業で就労して、途中で退職した利用者もいます。近年、作業所の仕事の中に農業を取り入れる「農福連携」が言われていますが、ここは最初から農業が中心です。四季の野菜栽培や支援学校時代から取り組んでいたシイタケ栽培に力を入れています。近くに直売所を設け、みんなで朝に収穫した新鮮野菜を販売、ほぼ1時間半で売り切れます。

 農業にこだわるのは、売れ筋だからということもありますが、草引きとか水やりとか、いろんな作業が含まれており、どの人も受け入れてくれるからです。農業は包容力があります。

 利用者にとって仕事も大切ですが、普通の生活ができることがもっと大切。母と二人暮らしの利用者が、お母さんの病気による入院のため一人で生活しなければならなくなりました。ガスや水道をちゃんと使えるか。一人でお弁当を買いにいけるか。心配になってコンビニの若い従業員に事情を話したところ、協力を約束してくれました。一歩踏み出したサービスですね。制度の谷間を埋めてくれるのは人ですね。お互いに一歩踏み出せば、それがネットワークにつながるのではないでしょうか。


こたけ・けんいち
1947年福島県生まれ。東京教育大卒。京都市立伏見工高、京都教育大附属高教諭を経て、76年同大教育学部附属養護学校(現・特別支援学校)教諭、92年から同校副校長を務め、定年退職。2010年から深草福祉農園施設長。