ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
来た道 行く道

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

できると信じて待つ

社会福祉法人「白百合会」
理事長 楠本 浩子さん




ヒット商品の「花ふきん」を手に、作業室の仕事を見守る楠本さん(京都市中京区三条通油小路東入ル、リ・ブラン京都中京)
 働く意欲を持ちながら障害が重く一般企業への就職が難しい人たちの自立を支援しよう。そう志し、福祉事業所の運営などに取り組み40年近くになります。私たちの事業所利用者さんから一般企業へ就職を果たす人は、これまでに10人を超えました。いつも周りの人々に恵まれてきたおかげです。

 福祉の道に関わったのは、長男が脳性まひと分かってからです。整肢園で訓練を受けながら北区の聖マリア養護学校に通いました。子どもたちの自立への受け皿づくりを模索する中で81年、卒業生の保護者と協力者の方々で「重度身体障害者マリアの会」を結成。これが「白百合会」の前身です。

 84年に「衣笠共同作業所」、次いで「洛陽」「西京」と計三つの共同作業所を開設。仕事と訓練、学びの場が確保できました。

 共同作業所時代から今も変わらぬ信条があります。利用者さんに、どんなことがあっても「生まれてきてよかった」と感じてもらうこと。障害の有無にかかわらず、人の能力は磨けば磨くほど光るものです。まず、できると信じ、できるまで待ち続ける。待ったら必ずできることがある―。職員さんには、常にそう言い続けています。他者に認められることが、仕事をするうえで最も大事だと思うのです。

 三つの授産所を集約して2010年、就労継続支援B型の事業所「リ・ブラン京都西京」(西京区)、翌年に「リ・ブラン京都中京」(中京区)を開きました。地域の人々と利用者さんが直に触れ合える場にする狙いで、共に1階をオープンカフェ、2階を作業室にしました。

 カフェは一流の指導者を得て利用者さんと職員で運営。コーヒーを入れケーキも焼きます。お客さんが2階の物音で作業室に気づき、袋詰めなどの仕事を発注してくださるなど、うれしい効果も見えています。

 仕事の受注と製品の販路確保は不変の課題です。共同作業所時代から機織り機で織るマフラーと、モザイクキャンドルを定番商品に育てました。キャンドル作りは、三重県のろうそく産地へ教えを乞いに行ったのを思い出します。晒布に花などのデザインを刺しゅうする「花ふきん」は、近年のヒット商品になりました。デザインの重要性に気づき、今は芸術系学部出身の職員さんを増やしています。

 福祉事業者として次に取り組みたいのは、子どもが夜に1人きりで食事しなくてすむようにすること。楽しい制約の中で放課後を過ごし、皆で食事する場をつくりたい。共働きの両親が安心して残業もできる環境づくりですね。それが、若い世代とつながり、地域での支え合いに役立つと考えています。


くすもと・ひろこ 
1937年、大阪市生まれ。京都光華女子高卒。
「重度身体障害者マリアの会」結成にかかわり、衣笠共同作業所設立所長などを務める。2004年、亡夫の後を受け現職。10年から「リ・ブラン京都西京」など就労継続支援B型の2事業所を運営。