ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

入院の子に豊かな時間を


京大病院小児科ボランティアグループ「にこにこトマト」

顧問 神田 美子さん




入院の子どもたちに配るバレンタインカードを制作するボランティアメンバーと神田さん(中央左・京大病院内のにこトマ事務局)
 子どもにとっいて「生きる」と「遊ぶ」は同じ意味です。病気の有無にかかわらず、子どもは遊べないと生きる意欲も湧かず成長にも差し障ります。

 「にこにこトマト」(略称・にこトマ)は、1995年から京都大医学部付属病院小児科に入院する子どもとご家族に、遊びを通じ「楽しく豊かな時間」を届けています。きっかけは、92年に小学生だった私の娘が小児科に長期入院したことでした。

 「入院生活を悔いのない時間にしてやりたい」。そう思い、おはなしに造詣が深い友人に頼んで病室や病棟内で「おはなしの会」を開催。個人活動でしたが、娘の退院2年後には他の友人や知人による英語や工作などの会も生まれ、ボランティアの数も30人弱まで増えました。「もっと充実させよう」という周囲の熱気が一つになり「にこにこトマト」として、新たなスタートを切ったのでした。

 以来20年間、私は事務局代表を務め、3年前に現代表の高谷恵美さんに後を譲りました。活動存続のためには、年齢的にも動ける間に世代交代を果たし、経済基盤を少しでも強固にしておきたかったのです。


院内のプレイルームで、にこトマの紙芝居を楽しむ子どもたち=昨年9月(にこトマ提供)
 現在、ボランティアメンバーは75人。活動メニューには新しく親子で楽しめるものなどを加え30種類ほどに充実しました。集まるのは赤ちゃんから小学校高学年の子どもが多く、家族を含めどなたでも参加できます。

 活動を通じ私たちが大事にしてきたのは「選ぶ自由」です。病棟の生活は多くの規制に縛られます。にこトマでは何でも自由に選べるようにしました。自由は生きる意欲を高め、選ぶことで個性が育つからです。例えば、台車に図書を積んで病室を回る「にこトマ文庫」では、子どもが選ぶまでじっくり待ちます。仮装を楽しむハロウィーン行事では、急がなくても好きな色や形の衣装が思い通り選べるようにしています。

 子どもたちには、教えられることが多々あります。Rちゃんという6歳の女の子がいました。病状末期になり、抱かれてコンサートを聞きに来たのですが、力なく無表情でした。ところが、音楽が始まるとRちゃんの足は音に合わせリズムを打っていました。楽しんでくれていたのです。「私たちの活動は、決して絶やしてはならない」。そう確信した瞬間でした。

 にこトマの運営はカンパと助成金で支えられています。この形を次に渡せるよう世代や立場を越えて意見を交え、経験を学び合いたいと願っています。病院をはじめ、さまざまな人々と良い関係を保ち「にこトマ」をもっと、つややかで真っ赤なトマトに育てていこうと思います。

かんだ・よしこ
1949、大阪市生まれ。関西学院大卒。
95年、友人らと京大病院小児科に入院した子どもたちに楽しく豊かな時間を届ける「にこにこトマト」を結成。2015年まで事務局代表を務めた。グループは、遊び提供による子ども育成支援の活動が認められ昨年、内閣府特命担当大臣表彰を受けた。