ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

レク選び、笑顔と達成感


社会福祉法人「小羊会」

高齢者部統括顧問
マーレ― 寛子さん




「セラピューティックレクリエーションを使って、高齢者のみなさんが心から楽しみ生きがいを感じられるようにしてあげたい」と語るマーレ―寛子さん(近江八幡市)
 福祉の道に携るきっかけは、あるYMCAのキャンプにリーダーとして付き添い、1人の自閉症児が集団の中で生き生きと楽しむ姿に感動してからです。高校卒業後の進路に悩んでいた時期で「こんな仕事ができたら」と、心を動かされました。

 福祉理論と障害児キャンプなどを本格的に学びたくなり、米国に留学。そこでセラピューティックレクリエーション(TR)の実践と研究に取り組みました。

 TRは日本で治療的レクリエーションと訳されたりしますが、私が教わり目ざしたのは治療ではなく、その人が心から楽しむことができるように援助すること。デイサービスを受ける高齢者のように、心身の機能が低下してきた人には介護予防のため、合唱やゲームなど多くのレクが提供されます。ただ、実際は楽しめるメニューが少なすぎるのです。

 レクを心から楽しめたら、その喜びは体の健康に直結します。諦めたり、楽しめない人がいれば、楽しめるように援助するのがTRです。米国から帰国後の1995年、私は近江八幡市の社会福祉法人「小羊会」が運営するデイサービスセンター「むべの里」を開設しました。

 TRを実践しようと、むべの里で職員と共に試行錯誤を繰り返しました。私は高齢者が自分で選択できる活動が大切だと考えてきたので、レクを音楽や習字、ものづくりなど四つの講座に分ける選択制にしました。お仕着せの一つのレクを全員でこなすのではなく、個々に好きなレクを選んでもらい、本当に楽しめる時間を持てるようにしたのです。

 講座の中で職員たちが指導する太鼓演奏や習字はレベルが高く、参加した人たちは一様にやる気を起こし「部活並みの」真剣さで取り組みました。好きなことは長続きします。選択制でみなさんの笑顔を引き出し、達成感を与えられたのは、大きな自信になりました。

 2005年には、選択式を採用した京都府の「京都式えらべるデイサービス推進事業」がスタート。私も推進委員の一人として加わりました。

 小羊会は現在、近江八幡市内で六つの高齢者介護施設を運営しています。うち、デイサービスセンター「老喜(おき)の里」は琵琶湖で唯一、人が暮らす島「沖島」に2000年に開設。道が狭い島内での送迎に、ゴルフ場用のカートを導入したり、島内の保育園と幼老交流を図るなど地元事情に応じた経営でうまく定着しています。

 六つの介護施設全体を見る仕事とともに、この4月からは小羊会経営の保育園園長を引き受けました。私は障害児教育から福祉の世界に入ったので、園を地域の障害児の居場所に使うことを含め、できることを模索中です。TRもおろそかにできません。楽しむ力は幼児期から育成するのが一番よいので、これから取り組むそのプログラム作りを楽しみにしています。

マーレー・ひろこ
1963年まれ。京都市立堀川高校卒業後、米国に留学。ノースカロライナ大などで「セラピューティックレクリエーション理論」を研究。米国人牧師の夫と共に帰国後は近江八幡市で介護施設の経営に加わる一方、平安女学院大などで福祉社会学の教壇に立った。今年度から私立八王子保育園長に就任。福祉社会学博士。