京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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●来た道 行く道
「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。 「きれいで長生き」を手助け自宅を拠点に、施設や病院、個人宅へも訪問する福祉美容師久保 美子さん
従来の訪問理美容はカットだけでした。私はスタッフとともに専用器材を持参してシャンプーから毛染め、パーマなど店と同じ理美容を行います。スタッフは介護・介助の講習修了者で、寝たきりの人にも対応します。 髪が整いお客様がきれいな姿を取り戻すと気分が晴れ、本人と周りにも笑顔が広がります。一方で終末期を迎えた人の最後のカットを終えた時、ご本人、家族から涙で感謝されたこともありました。笑顔や涙を体験するたびに、この仕事の大切さと責任の重さを自覚します。 「きれいやプラスワン」は、私が栗東市の自宅に3年前に開設した「椅子1席だけの美容院」です。個室を望まれる人たちのために作りました。がん治療後のウィッグ相談や、発達障害の子どもさんたちも来られます。室内は車いすで入れ、そのまま洗髪もできる構造です。完全予約制ですが、いつでも受け入れられるよう定休日はなし。営業時間も定めていません。 個室美容院なのに、スタッフは私を含め7人います。実は、ここは一般社団法人「きれいや総研」の滋賀中央センターで、私が代表者。つまり訪問の基地と個室美容院を兼ねているのです。きれいや総研は福祉訪問理美容の全国組織。現理事長の田邊稔雄氏は福祉理美容の理論と実践を初めて体系化した方です。 出身地の愛媛県で美容師になった私は、結婚・出産を経て栗東市へ移住しました。近所の美容院に勤めていた2009年、ネットで田邊氏の理論を知って「これだ」とひらめき、すぐに田邊氏の講座を受講。6年間は訪問専門で働いたのち「きれいやプラスワン」を開店したのです。この間、介助と介護法を学ぶため、障害児の放課後デイサービス施設で2年半、アルバイト勤務したこともありました。 きれいや総研の事業に私が共感したのは、地域福祉の視点で人々の「きれいで長生き」を手助けするという趣旨のほかに、パート美容師の新しい働き方に道を開く点です。とくに小さい子どもを持つ女性の美容室勤務は、職場に対し遠慮や気兼ねが生じ、働きづらさが付きまといます。福祉訪問理美容なら短い時間でも働け、子育てと両立が可能。ママさん美容師には、最適の仕事なのです。 一般にはまだ認知度が低い福祉訪問理美容ですが、必要とされる方は大勢おられます。今後はもっと仕事のフィールドを広げ、困っている人たちのお役に立つとともに、ママさん美容師がより輝くような職場に育て上げていくつもりです。
くぼ・よしこ
1967年、愛媛県生まれ。 茨木市などで美容室に勤務。2015年、栗東市の自宅に個室美容サロン「きれいやプラスワン」を開設。福祉訪問理美容と個室美容の2本立てで活動している。所属する一般社団法人「きれいや総研」の理事、講師も務める。栗東市高野500の10 電話077(552)7987
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