ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

安全な居場所を提供

「紙芝居ことわ」代表 
田中 元洋さん



「ことわ」の開催回数は次回12月で90回を迎える。「子どもたちの笑顔は何ものにも代えがたい。だから、安全で思い切り遊べる場が欠かせないのです」と語る田中さん(10月20日、宇治市大久保青少年センター)
 子どもたちに安全安心な居場所を提供して思い切り遊んでほしい。自然に触れられ、三世代交流も生まれる場にしたい―。「ことわ」を開設した動機は、そんな思いが積み重なったからです。

 安全にこだわるきっかけは10年前のこと。長女が小学校の入学祝いで学校からもらった記念品の中に防犯ベルが入っていたのです。近所の原っぱで日暮れまで遊び回った自分の子ども時代と比べ「今はそんなに危険なのか」とショックを受けました。

 防犯ベルより、地域の目で子どもを守るべきと思い、地元の宇治市でPTA役員になったのですが、行事に追われてばかり。「独力で安全な遊び場をつくるほかない」と決心したころ、ふとした縁で近鉄大久保駅近くにある京都文教大学の施設の一部を使わせてもらえることになりました。そこで活動の軸に選んだのが紙芝居だったのです。

 紙芝居ならデジタル時代の子どもたちには新鮮です。月1回の開催ですが、「お米ができるまで」「ホタルの一生」など、月ごとに自然に親しめるテーマを決め約30編の紙芝居を自作しました。写真を多く使い、テーマに沿ったクイズを出すなど楽しめる内容にしたところ、親子での参加も増えていきました。

 紙芝居だけでなく竹製けん玉やタオル人形などの工作、時には大縄跳びや、駐車場の路面を使う落書き大会も開きます。参加は原則、無料ですが、慈善寄付のために集めているベルマークの持参をお願いしています。

 大久保での活動を機に、行政を含め私の活動を理解してくださる方が現れ、現在は宇治市木幡公民館、同市大久保青少年センター、城陽市北部コミュニティセンターの三カ所を拠点にしています。2014年には京田辺市で「京田辺こどもクラブ」を開設。内部に手芸、料理、放送など六つのクラブを置いて活動の間口を広げました。

 私は「人の役に立つ仕事、地図に残る仕事がしたい」という願望と、橋が好きだったこともあって土木専門の今の仕事に就きました。橋や道路の建設は大事業ですが、子どもの親になってみると、地域に密着して子どもたちに向き合うきめ細かい活動にも興味が湧いたのです。

 妻(麻里さん)や家族がこのボランティアに全面的に賛同して毎回、スタッフにも入ってくれるので助かっています。

 多くの子どもと接してきて、まだスキル不足を感じるのと、教師への憧れもあって昨年、東京未来大学通信教育課程の三年次に編入学。子ども心理学を学んでいます。今夏、京田辺市で教育実習を経験して子どもたちの純粋さ、命の輝きにあらためて感動しました。教員免許を取得予定の来春は、新たな活動方針を決める時です。土、日曜日に限らず、いつでも子どもたちを迎え入れる体制をどうつくるか、答えを見つけるつもりです。


たなか もとひろ
1975年、大阪市生まれ。大阪工業大短期大学部卒。公務員。小学生までを対象に、週末開く安全な遊び場づくりのボランティアを志し2012年、京都府南部をエリアに「紙芝居ことわ」を開設。14年には「京田辺こどもクラブ」を発足させた。宇治市まちづくりマイスター。京田辺市在住。