ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
来た道 行く道

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

「できる」自信持つ場所を

認知症予防教室「脳トレネット」代表
芦田 美子さん



大勢で楽しめるよう工夫された脳トレネットの認知症予防ゲーム。参加者に応援の声をかける芦田さん(中央)=11月19日、南丹市の市立八木老人福祉センター
 「脳トレネット」は頭の体操や集団ゲームを通じ、認知能力と健康の維持向上を図ることを目的としたボランティアグループです。

 南丹市を中心に「認知症になるのをできるだけ先延ばしして、最後まで住み慣れた地域で元気に暮らし続けよう」と呼びかけて発足。ことしで?年目を迎えました。

 私は東京や大阪などでの長い都会暮らしの後、40代半ばで南丹市に移り住み、夫の両親と同居。高齢の両親の介護を通じ「地域に早く溶け込みたい。親たちにはできるだけ最後まで自分らしく元気に暮らしてほしい」と願い、自分でできる地域活動を模索しました。

 最初に取り組んだのが、「ふれあいサロン」です。2005年から月1回開き、高齢者の経験を生かすしめ縄づくりや伝統料理講習などを通じ居場所づくりと多世代交流を図っています。

 サロンの活動を重ねて気付いたのは、老いを迎えた人に「地域がどれだけ安心と健康、生きがいを与えられるか」でした。人と話す機会がない、一日笑うことがない、社会参加を実感できない。「そんな思いをさせない地域づくりこそ求められている」と、感じていました。

 ちょうどそのころ、宇治市のNPO法人「認知症予防ネット」前理事長の高林実結樹さんが改良、普及された「みんなの認知症予防ゲーム」に出会ったのです。入念に工夫された集団ゲームや各種の体操で、参加者の表情が生き生きと輝くのを見て、内容の充実度と楽しさに魅了されました。

 高林さんの認知症予防教室リーダー養成講座をすぐに受講。修了後、仲間たちと相談して「自分たちも予防のための教室を」と、始めたのが「脳トレネット」でした。現在は、老人クラブなどの団体から受託する連続講座のほか、自主講座や出前講座など年間計約120回の教室を開いています。

 1回当たりの参加者は平均20人前後。スタッフは30人ですが、全員リーダーの資格を持つサポート意欲の高い人ばかりです。

 私たちが使うプログラムは「みんなの認知症予防ゲーム」が基本です。手指を使うグッパー体操や、十数人で行うシーツ玉入れなどを通じ、頭と体を動かします。

 「みなさん10年たっても、認知機能に顕著な衰えは見られませんよ」。発足以来、教室参加者を診ていただいているドクターから、かけてもらった言葉が私たちの励みです。

 これまでの活動を通じて、人は老いても「何かできることがある」「必要とされている」という自信が、活力になることを実感しています。今後も高齢者が自信を見いだせる居心地のよい場所を地域で提供し続けていきたいと思っています。


あしだ・よしこ
1947年、南丹市(旧園部町)生まれ。同志社女子大卒。
70年、日本万国博協会勤務。結婚後、学習塾経営、高校講師などを経て、2006年から南丹市に居住。市内で高齢者の社会参加と生きがいづくり、認知症予防の地域活動を展開している。「健生ネットワーク京都」代表幹事。「刑部ふれあいサロン」代表。