駆け寄る園児たちの目がきらきらと輝き、ふだん笑わないお年寄りが一瞬に表情を崩す。犬には、出会った人をすぐとりこにする魅力があります。そんな犬の素晴らしい能力を生かし、高齢者の心を癒やしたり、子どもたちに命の大切さを教えるボランティアを続けて20年ほどになりました。
活動母体の「アンビシャス」は、トレーニングを積み厳格なテストに合格した犬とその飼い主たちの集まりです。会員22人とセラピー犬34頭が登録。要請があれば、福祉施設や学校、病院、企業などを訪れます。
私たちの活動には三つの柱があります。犬との触れ合いで心の癒やしと笑顔をもたらす「ドッグセラピー」。子どもが対象の「いのちの授業」。災害時に備えた「ペット同行避難」の啓発。いずれも、人と動物が共生するやさしいまちづくりを目ざす取り組みです。
私は20代で嫁いで以来、多くの犬と暮らし当初はドッグショー・競技会に打ち込みました。転機は遺伝病を抱えたダルメシアンと、怖がりで落ち着かない性格のボルゾイを飼ったこと。病気と知らず、しつけにも悩んだ結果、飼い主の責任として犬の特性を学ぶ必要性とトレーニングの重要性に気付いたのです。
トレーニングを共にする仲間たちと交流するうち、「この犬たちで何か社会貢献を」と思い立ち、それが「アンビシャス」誕生につながりました。初めは犬によるセラピーを説明しても相手にされませんでした。今は派遣要請が絶えず、年間の活動日数も150日を超すほどになっています。
主要活動の「いのちの授業」は小中学生を主な対象に、犬に触れて聴診器で心音を聴き、自分たちと同じ命が宿っていることを直接体験してもらいます。
ある小学校で女児から思いもよらぬ質問を受けたことがあります。「この犬には何色の血が流れているの?」
社会全体がバーチャルなものに慣れ、日常から生死の実感が遠のいているのですね。ぬくもりを持った目前の命を、皮膚感覚で理解させる私たちの活動は意味があり、虐待や捨て犬を減らすことにもつながると確信しています。2012年からは、京都市が幼稚園、小中学校で進める動物愛護教室「アニラブクラス」に協力。いのちの授業は活動域をさらに広げました。
「ペット同行避難」の啓発は、東日本大震災などで顕在化した避難所でのトラブル解消が狙いです。入場を断られペットと家族が離散する事態を防ぐため、地域でペット保有者と非保有者が事前にルールを取り決めておくことなどを提唱しています。
犬と人をつなぐ私たちの活動は、一度(咬傷=こうしょう=)事故が起きればそれで終わり。犬たちには常に高いレベルの能力維持が求められます。活動の間口を広げるより、これからは3本柱の充実と、地道なトレーニングを積み上げていくことが大切と考えています。