ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

障害は「能力」の新時代へ

NPO法人「支援機器普及促進協会」
理事長 高松 崇さん



PTA主催のICT機器研修会で、最新の製品情報や学習への応用などについて説明する高松さん(1月23日、京都市伏見区)
 障害のある子どもを主な対象に、タブレット端末などの機器を使って教育と福祉の両面から支援する活動を続けています。

 仕事柄、教育現場はよく訪れますが、ICT(情報通信技術)への抵抗は結構根強いのです。「勉学は苦労して成し遂げるもの」という先入観があるようで、ICT機器の教育利用は安易で楽な道と敬遠する傾向が見られます。

 現実はどうか。画面上の文字盤に視線を送ってタブレットやパソコンを操作する視線入力装置は、5年前に150万円もしました。今は1万数千円です。これと音声読み上げ機能を併用すれば、障害で読んだり書いたりができない子どもでもコミュニケーションが可能になる。寝たきりのベッドから、タブレットを通じて離れた場所にある機械やロボットを動かせるのです。

 お客にコーヒーを出したり(分身ロボット喫茶)、農作業(GPSトラクター)さえできてしまう。学習や生活の不自由は劇的に改善されます。そんなICT機器を教育に利用しないなんて、子どもたちがこの時代に生まれてきた意味がありません。

 私が20年間のサラリーマン生活から転じて独立したのは、障害のある三男(15)が生まれたのがきっかけです。民間企業でシステム開発に携わっていましたが、三男の障害で福祉や特別支援教育の世界にかかわってみると、有用なICT機器の導入がほとんど進んでいない。「それなら自分で」と、協会開設に動いたのです。

 初めは精神障害や、引きこもりの人たちの支援、次いで機器の貸し出しや活用支援の仕事を増やしました。いま支援会員は300人超。実働チームは4人いて、みんな何らかの障害がありますが、技術に習熟しているので使用法の出張支援も十分こなせます。私自身は各地の学校やPTA、病院などに招かれ機器活用研修の講師や講演に年間100日以上を費やしています。

 ICTに加え今後、AI(人工知能)社会が本格化すると、私は障害のある人たちの就労がプラス方向に大転換するだろうと予想します。普通レベルの人たちはAIに淘汰(とうた)され、障害が「まねのできない能力・価値」と評価される場面が必ず増えてきます。

 例えば自閉症の人は、単調な同一作業を長く続けても苦にしない。米国のあるゲームソフト会社では、新製品のバグ(欠陥)発見のため8時間ゲームをやり続ける仕事に、年俸数百万円で自閉症の青年を雇っているそうです。障害が「機械(AI)化できない能力」と認められたのです。

 日本でも同じことが起きるでしょう。将来の計画として、私は障害の種別ごとに適した就労のビジネスモデルを作り上げ、全国に普及させたい。障害があっても価値のない子どもなんて一人もいません。全員の社会参加を実現したい。私のこれからの20年は、就労機会創出の支援を重点に活動しようと思っています。


たかまつ・たかし
1962年生まれ。関西大卒。ICT・福祉情報機器コーディネーター。民間企業のシステムエンジニアなどを経て43歳で独立。2011年、障害児・者の学習や生活支援用の機器を提供するNPO法人「支援機器普及促進協会」を長岡京市に開設した。現在は京都市教委総合育成支援課専門主事なども務める。長岡京市在住。