ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

介護体験基に活動広げる

障害ある人たちが働く「ハッピーハウス葵」
代表 細見 正枝さん


 自宅(京都市左京区)のお向かいの家にある日、バイクの女性が何かを運んで来たのです。表に出て聞きました。「それ何ですか」「配食のお弁当ですよ」

 私と地域福祉との関わりは年前の、この出会いが原点です。お向かいには当時、夫の高校時代の恩師が1人で住んでおられ、弁当は「配食ボランティアむつみ」(北区)さんから届いていました。「こんな福祉の形があるのか」と感激。翌週にはもう「むつみ」のボランティアに参加していました。


「ハッピーハウス葵で、利用者の人たちと請け負った仕事に精を出す細見さん。絶えない笑顔がトレードマーク」(4月20日、京都市左京区下鴨北園町)
 福祉活動に心が動いたのは、義兄の介護体験などがあったからです。私は結婚当初、下京区に居住。夫の兄は重い障害があり車いすの生活でした。住居は別ですが、私が移動や排せつの介護を引き受けました。

 義兄は演奏会や観劇が趣味で、私は毎回、車いすを押して同行しました。悲しかったのは帰りの足。タクシー待ちの列に並んでも、車いすには停まってくれず、寒さに震え立ち続けた夜を忘れません。外出先で義兄が障害のため周りから疎まれるつらさは、幾度となく味わいました。

 30年近く介護した義兄の最期をみとると、次は難病になった下の義兄の介護が待っていました。車での送迎などを続けたのですが、この経験は私を鍛えました。必要に迫られ取得した介護福祉士資格や運転免許は、後の配食や就労事業所運営に生きたのです。「苦労した分はすべて戻って来た」と感じています。

 「むつみ」で活動中の2000年、施設工事で配食が一時停止したのを機に仲間8人と共に自宅で「配食ボランティア葵(あおい)」を始めました。10年続け、11年からは京都総合福祉協会・北山ふれあいセンター(左京区)に厨房(ちゅうぼう)を移させてもらいました。今は2カ所で週3回、約40食(1食550円)ずつ作り、左京区と北区の高齢者宅に届けています。

 就労継続支援B型事業所「ハッピーハウス葵」を始めたのは4年前です。「どうぞ空き民家を使って」というお話をいただき決断しました。精神障害の方などが、時間に縛られず働ける場です。当初3カ月は利用者さんゼロで赤字だけが膨れ、焦りました。私の次男、三男も運営に参加してくれ事態は好転。利用者さんは40〜70代の13人に増え、数珠の箱詰め作業などを主体に工賃をお支払いしています。

 「ハッピーハウス葵」が休みになる日曜日を利用して、同じ建物で始めたのが「あおいこども食堂」です。3年前から月2回開き、京都府立大などの学生さんも手伝ってくれます。調理のボランティアは腕達者がそろい、おいしさには自信があります。

 私の地域福祉の仕上げは、障害のある人のグループホーム経営と以前から決めていました。自立には共同生活が最もよいという確信があり、実現の場所と機会を探っているところです。


ほそみ・まさえ
1942年、熊本市生まれ。介護福祉士。地域福祉の「ふたば葵合同会社」代表。2000年から京都市左京区で高齢者向けの「配食ボランティア葵」を開設。15年、同区内の民家を借りて就労継続支援B型事業所「ハッピーハウス葵」、16年には「あおいこども食堂」を開設した。ハッピーハウス葵075(702)9457