障害のある人に西陣織の仕事に就いてもらう。時間をかけて技術の習得に励み、職人並みの高い報酬を目ざす。そして、やりがいと希望を持って伝統産業の後継者になってもらう。私はこれを「伝福連携」と名付け、西陣工房で実践してきました。
伝福連携は、政府が進める農福連携(障害者が農業分野で活躍する)にちなむ造語です。京都市内の障害者なら、農業よりも伝統産業の再生で活躍してほしい。自立を遂げ社会に貢献する意味でも、西陣織など手作業の多い伝統産業への就労は最適だと確信しています。
西陣工房は2006年に「就労継続支援B型事業所」の指定を受けました。いま、知的、聴覚障害などのある28人が働き、糸繰りと整経(たて糸をそろえる作業)、機織り、京組みひもを中心に製造、販売しています。機織りは手織りとジャガード織り、すくい織りなどを手がけ、京組みひもは修学旅行生ら対象の体験教室も開いてきました。
知的障害の人は事務仕事が不得手でも、整経や糸繰りに必要な「物を目で追い反射的に手を動かす能力」は高い。西陣工房では全国平均の5倍、月額工賃7万5千円を稼げる人がいます。
徒弟制度で発展した伝統産業は、私たちの作業形態によくマッチします。工房では技術にたけた職員が厳しく指導。同時に家族的な連帯を重んじ、週末は利用者のレクリエーションやスポーツ活動に力を入れています。
西陣の整経業の家に生まれた私は、家業に興味が薄く視覚障害者総合福祉施設「京都ライトハウス」に就職。西京区に授産施設を開設する計画にかかわり1985年、「洛西寮」として完成すると同時に、その事務長に就きました。約20年務めた後、リスクを取ってでも就労支援の新事業に挑戦したい思いが募り、西陣工房を発足させたのです。
障害者が一般企業や就労継続支援A型事業所で働く場合、雇用契約があり給料制で最低賃金が保証されます。障害のやや重い人が集まるB型は、雇用契約は結ばず出来高払いの工賃制です。しかし、最低賃金を保証される職場は報酬が高い分、短期間に成果を求められ、就労しても訓練や研修の時間は短いまま、掃除などの単純作業に回されやすい傾向があります。
出来高払いのB型なら工賃は低い半面、結果を急がないので仕事を身に付ける修練の時間が十分取れます。技術を磨き、工賃を最低賃金並みに近づけるのが私たちの目標です。
西陣はいま、後継者難で糸繰り業、整経業の廃業が相次いでいます。その影響か、西陣工房への注文は増え、私たちは規模で西陣最大級の糸繰り事業所になりました。近い将来、さらに規模を広げて移転新築を果たし、業界に役立つ有能な後継者を送り出していくつもりです。