ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

一般集合住宅で自立支援

NPO法人京都「こうでねいと」
代表理事 山田 惠子さん



 マンションなどの空き室を賃貸契約して、障害のある人たちのグループホームや、住居に困った高齢者の「セイフティハウス」として運営したい―。周りの人や行政から「無理だ」と言われながら、あえて挑んだ居宅支援事業が、ようやく軌道に乗ってきました。


グループホームの共有室で、入居者の巡回見守りサービス向上などについて、長女のあいさんと話し合う山田さん(左)=昨年12月9日、京都市東山区今熊野宝蔵町
 障害のある人が暮らすグループホームは通常、設備の多くが共用ですが、「バスとトイレ、キッチンを備えた個室」を望む人は少なくありません。京都「こうでねいと」は、その人が望む暮らし方ができる住居を提供して自立や社会参加を果たすのを支援する団体です。私たちのグループホームは、1棟で5〜8室をまとめて借ります。うち1室を世話人が常駐する共有室に充て、利用者さんのケアや相談に当たっています。

 「セイフティハウス」は、退院後の行き場がない高齢者、家庭内暴力の被害者らが対象。こちらは1室からでも開設可能です。

 実際の運営には、家主さんの説得から個室の改修、消防法や建築基準法のクリアまで難題が待ち受けます。開業から2年余りたち、京都市内4カ所で計35人の利用者(うち、グループホームは25人)を数えるまでになりました。障害者の相談支援専門員や病院からは「部屋の空きはないか」と、問い合わせが増え、社会に役立つ事業になったと実感しています。

 福祉とは縁遠かった私が、この道を選んだのは48歳で悪性リンパ腫を患ったのがきっかけです。余命宣告まで受けながら、奇跡的に生還できました。闘病中、多くの人に助けられ「今度は自分が助ける番」と決意。新たな仕事として介護福祉士を志したのです。

 資格を取るため京都市内の福祉事業所のデイサービスで3年間、経験を積みました。別の事業所に移ってまた3年、バイクで訪問介護専門に走り回りました。介護現場の実態が詳しく見えてきたある日、長女に「退院後の行き場がない高齢者が増えている」と話したところ「私たちで解決できないか」と、意見が一致したのです。

 長女は学生時代に宅建業の資格を取り、不動産会社の勤務経験もあります。2人で部屋を貸してくれる大家さんを探しましたが、断られ続け一歩も進みません。そんな時に出会ったのが、長女と面識のあった仙台市のNPO法人みやぎ「こうでねえと」理事長、齋藤宏直さんでした。空き物件を利用した個室型グループホームの先駆者で、京都「こうでねいと」の発足も齋藤さんの激励と指導で実現できました。

 私たちが契約している部屋には、高齢者のほか知的障害、精神障害のある人も住んでいます。これまで事故や大きなトラブルは一切、起きていません。一般の入居者よりトラブルは少ないと思います。まだ残る偏見や誤解を解き、事業の趣旨を理解してくださる大家さんを1人でも多く確保して、契約戸数をさらに伸ばし地域福祉に貢献していくつもりです。


やまだ・けいこ
1958年京都市生まれ。平安女学院短大卒。
和装学院の営業担当だった2006年、悪性リンパ腫で」入院。完治後、介護福祉士を志し福祉事業所などで経験を積む。17年、長女あいさん(法人理事)と2人でNPO 法人京都「こうでねいと」を設立。介護福祉士、サービス管理責任者。日本居住福祉学会会員。