ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
支え合う絆 〜 高次能機能障害の夫と

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

6.私からのメッセージ

少しでも安心して暮らせますように

福崎 保子さん



 今回は京都新聞を通じて「高次脳機能障害」を伝えてきましたが、まだまだ伝えきれないことがたくさんあるので、これからも私は国や同じような境遇の方々へメッセージを届けていきたいと思っています。


入院する病院で行われた文化祭の模擬店で食事をする福崎さん夫婦(大阪府和泉市)
 主人へ 統合失調症の妻を支えた「智恵子抄」の作家の高村光太郎や認知症の大山のぶ代さんをがんで命尽きるまで支えた砂川敬介さん。私は彼らのようになれなかった。あなたは生まれ変わっても私と一緒がいいといつも言ってくれていたね。日本一周旅行も連れていくと。そんなずっと大切にしてくれたあなたを施設や病院に入院させてしまった。あなたを介護する生活より娘との平穏な生活を選んでしまった。ごめんね。側(そば)に居てあげられなくて、本当にごめんね。私は今はあなたと一緒に暮らせないけど、あなたや同じ障害を持つ方とご家族が少しでも安心して暮らせるように活動していきます。

 同じ障害を抱えた方とご家族へ 一人で抱え込まないでください。高次脳機能障害支援センターや地域や福祉の機関に相談してください。頼れる所は頼って、一緒に支え合っていきたいですね。

 国や政治家の皆様へ 高次脳機能障害の専門の施設が少ないです。病院・福祉・警察関係者も、もっとこの障害について勉強してほしいです。主人の症例はあくまでも一部です。同じ障害の方も一部不自由な部分を感じながらも優れた能力を持たれ、職場復帰された方、逆に寝たきりの方もいらっしゃいます。

 だから「障害者手帳」とひとくくりに言っても、今は「身体障害」と「精神障害」「療育手帳」の三種類だけですが、いずれとも分類できないので「高次脳機能障害手帳」の発行が必要だと思います。主人のように徘徊(はいかい)する人には鍵と見守りの人手が必要なので、受け入れ先も滋賀では少なく、ショートステイも他府県まで行っていました。一般病院への入院も「個室」が条件でした。介護保険法も「認知症」と変わらない症状があっても「高次脳機能障害」との分類が難しいとの事。福祉をめぐるいろいろな事件がニュースになっていますが、福祉の現状は人手不足や重労働の割に賃金が安く職員の方も介護に余裕もなく悪循環になっていると思います。福祉関係の予算をもっと増やしてほしいものです。主人は排泄(はいせつ)障害もあり、おむつをしています。これも脳の後遺症ですが、現在、自費で一カ月3万円以上を負担しています。交通事故で突然、大黒柱の主人が障害者となった今、未来が不安で眠れない夜もあります。「目に見えない障害」でたいへんな思いを経験されている方々が全国にまだまだいます。

 最後に、自動車、バイクに乗る皆様へ スマホや携帯を見ながらの運転や無理な追い越しはやめてください。ヘルメットはフルフェースかあごのベルトを確認して、大切な頭を守ってくださいね。どうか安全運転を心がけて、主人や私たちと同じような思いをされませんように。このメッセージが皆さんの心に届きますように。

(福崎さんの連載は今回で終わりです)


ふくざき・やすこ

1961年大阪生まれ。
83年、天理大学外国語学部卒業。
2006年に夫が交通事故後、高次脳機能障害となる。
介護の傍ら、長女と整体とエステ店の経営者となる。滋賀県在住。55歳。