ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
発達障害を個性に変えて

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

当事者の気持ちをつなぐ
子どものころからの「独特な特性」

「マジョリティーと呼ばれる人と違う特性を知ってほしい」と講演活動に励む笹森さん(2010年9月、鹿児島県徳之島)

笹森 理絵



 「私は発達障害のデパートです」そんな一言から、お話をスタートすると、皆さんはどう思われるでしょうか。びっくりされるでしょうか。かわいそうだと思われるでしょうか、大変だなあと思われるでしょうか、それとも、誰にでもよくあることじゃないの?と思われるでしょうか。その前に「発達障害っていったい何??」と思われる方のほうが多いかもしれないですね。この連載の中で、発達障害ってなんだろう?という疑問に少しでもお答えできればいいなあと思います。

 実は私は発達障害の当事者です。それも32歳にして初めて診断されました。中年期に診断される病気や障害は、その原因が後天性のものが多いと思うのですが、私の場合は先天性の障害でありながら、ずっとわからないままに生きてきて、中年期に入るころに、大きく何度も人生につまずき続けた挙句に、やっと診断されました。それもひとつではなく、ADHD(注意欠陥・多動性障害)、算数の学習障害、アスペルガー症候群、発達性協調運動障害などなど幾つも重複しているそうです。というわけで「デパート」なのですね。

 そんな私は現在、発達障害の啓発や支援にかかわっています。自らさまざまな場所に出向いて行き、発達障害の当事者、発達障害がある子の保護者、そして発達障害者のサポーターとして、さまざまな視野と立場から講師としてお話をしたり、支援する側・される側両方の困っている方の相談をお聞きしたり、所属しているNPO法人特別支援教育ネットワーク「がじゅまる」で行事の企画や運営をしたり、執筆をしたり、自分の地域の親の会や自立支援協議会児童部会などの福祉活動に参加したり、それはもうバラエティーに富んだものとなっています。

 この中で特に力を入れていることは講演活動です。この「お仕事」を始めて、もう6年以上になるでしょうか。「私は通訳になる・・・」そう思ったのが人前でお話を始めたきっかけでした。今まで、自分が持っている感覚がみんなとちょっと違うことには気づいていましたが、「おとめ座でAB型だから」「男っぽい性格だから」・・・と思っていたのです。ところが、発達障害だと診断されて以来、さまざま検証して照らし合わせて考えるに、自分の感覚と社会一般のいわゆるマジョリティーと呼ばれる人の間には、想像以上の違いがあるのだと知りました。それも、急にそうなったわけではなくて、子どものころからずっと持ってきた「独特な特性」ですから、成長の過程の問題ではないこともわかりました。つまり、発達障害を持たない人にはわからない感覚がたくさんあり、それがたとえ親子であっても、お互いに理解できない行動や感じ方があるのです。

 私は自分が当事者という主観的な立場と、発達障害のある個性豊かな3人息子の母としての客観的な立場の両方を持っていますので、その日常生活のひとつひとつから、双方の思いを感じて、考えて、通訳し、つなぐことをお仕事にしようと決心したのでした。


ささもり・りえ  1970年、神戸市生まれ。2003年、発達障害の診断を受ける。05年、「NHK障害福祉賞」第1部門優秀賞受賞。NPO法人特別支援教育ネットワーク「がじゅまる」理事。旧姓の逸見から「へんちゃん」と呼ばれる。著書に「へんちゃんのポジティブライフ」(明石書店)。神戸市在住。