ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
発達障害を個性に変えて

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

苦手より得意を伸ばし生きやすく
算数で困った

笹森さんの中学1年の時のテストの成績。国語(左端)、社会(その横)に比べ数学(中央)の落ち込みが著しい=画像を一部加工しています

笹森 理絵



 漢字はすごく得意で、漢字検定でもバリバリ上級が取れそうな勢いなのに、例えば「2001―10=」という計算になると、簡単なはずなのに途端にわからなくなる、そんな偏りの大きい人を見たら、皆さんは、どう感じるでしょうか。

 本当に算数の苦手な人だと思いますか?それとも、漢字がバリバリできるのに、計算ができないのは練習や努力が足りてないからじゃないの?と思いますか。

 私には算数の学習障害があります。右に挙げた例えは、まさに私のことなのです。

 学習障害とは、知的発達に問題はないのに、読む・書く・計算する・推論する・・・という部分に特異的に起こる能力の落ち込みや偏りを言います。これは先天的な脳の機能障害で、本人の努力の外に原因があります。

 私の場合は、計算と推論の部分に特に問題がありました。学校の勉強でつまずき始めたのは小学校3年生の算数の文章題からです。それまでは、計算内容に複雑さがないので、九九も簡単な計算も暗記して乗り切っていました。

 が、段々と問題が複雑で抽象的になり、頭の中だけで考えるにも覚えていられないし、イメージができなくて問題の問う意味もわからず、立式自体もわからなくなりました。

 中学校に入り、算数が数学に変わるとさらにわからなくなり、成績を折れ線グラフにすると、まるでジェットコースターのような状態で、教科間の成績の乖離(かいり)がひどくなりました。

笹森さんが2003年に受けたWAIS―R成人知能検査。算数(上から4つめ)の判定が低く学習障害が明らかになった
 当時、その理由がわからなかった先生も親も、そして自分も戸惑うばかりで、あとはもう「苦手から逃げるな、努力しなさい、何とかしなさい」と言われることの連続でした。

 当然、高校を受験する時にもこの数学の落ち込みが足を引っ張り、受験高校は、希望していた学校よりランクを落とさざるを得ず、高校に何とか進学したらしたで、さらなる数学地獄に落ち込みました。

 高校で何より困ったことは、義務教育ではないので赤点だと留年になることです。他がどんなに成績がよくても、一教科でも赤点があれば容赦なく留年になるわけで、試験の度にひどいストレスにさらされました。できる教科と苦手な数学の点数差が90点や95点あることもざらだったのです。

 高校でもこのギャップの理由はわからないままでしたが、提出物や授業態度などで何かと配慮をしてもらって、苦しいながらも何とか留年せずに卒業できました。これで全ては終わった、あとはもう夢を追いかければいい・・・そう思った私に数学は更に追い打ちをかけます。

 当時の私の夢は考古学者で、遺跡発掘をすることでしたから、大学に行ったらもうOKだと思いきや・・・なんと考古学は測量がメーンの仕事で、測量機器を前に再び途方に暮れることになりました。

 その後、32歳で診断を受けて算数の学習障害があると知った時に、苦しみ続けた原因が自分の努力不足ではなかったのだとホッとしたのは確かです。同時に、学習障害は苦手より、得意を伸ばすことで生きやすくなることもよくわかりました。


ささもり・りえ  1970年、神戸市生まれ。2003年、発達障害の診断を受ける。05年、「NHK障害福祉賞」第1部門優秀賞受賞。NPO法人特別支援教育ネットワーク「がじゅまる」理事。旧姓の逸見から「へんちゃん」と呼ばれる。著書に「へんちゃんのポジティブライフ」(明石書店)。神戸市在住。