ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
発達障害を個性に変えて

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

自閉症などの支援者養成講座で発言する「がじゅまる」副代表の笹森さん(右)。左は上好功代表(2011年9月24日、松江市保健福祉総合センター)

社会との通訳を仕事にしたい
独特の感性を長所に

笹森 理絵


 私は現在、全国のさまざまな場所で講演会を行ったり、NPO法人特別支援教育ネットワーク「がじゅまる」の副代表としてのスタッフ活動や地域自立支援協議会こども部会のメンバー、自分の地域のママの会サポートなど、さまざまな活動のほか、先日には精神保健福祉士と社会福祉士の国家試験に挑み、精神保健福祉士には合格しました。また今春には、2回目の大学生活も修了しました。若いころ、自分には「福祉」は関係ない・・・と、社会福祉学なんて、最も興味の薄い分野だったことを、こうして大人になってから能動的に専門的に学ぶとは、全く思ってもいませんでした。一生独身で、考古学者になって博士号をもらうのが夢だったはずなのに、人生は本当に何が起こるかわかりません。

 では、笹森さんは今後、どんな人生を送りたいですか? と問われたなら、なんと答えるでしょうか。やはり国家資格をとって、今、学んでいる専門分野を生かし、自分の経験や独特の感性や特性を生かしながら、さまざまな形で発達障害にかかわる相談支援のお仕事をしていきたいと考えています。何といっても私には、当事者・保護者・援助職の三つの視点がありますので、特に、発達障害がある人と、社会の通訳者になって、当事者ニーズや支援者ニーズの両方を考えながら、社会資源の幅を広げることなども「職業」として取り組んでいきたいと思っています。そういう意味では「自分自身の就労」が一番の目標といえるでしょうか。

 また、診断を受けた時の話も連載の中で書きましたが、「自分の努力不足ではなかった」とほっとした半面、診断を受けた翌日から何かがいきなり変わるのではないという現実にも直面しました。散らかる部屋、泣き叫ぶわが子、仏頂面の主人、そう、発達障害だと言われても、その瞬間から自分が別人になるわけでもなく、現実が自分や家族に合うように突然、変わるわけではないのです。何より大切で必要なことは、診断を受けた本人や家族が、一歩、勇気を出して踏み出せるような、安心できる環境や社会資源があることです。

 つまり、「診断後」のサポートの有無ということですが、特に成人は現在、診断機関自体が少ない以上に、診断後につながる社会資源がありません。みんな、診断を受けても、その次のステップに乗れないのが大変な部分なのです。

 また、教育・医療・福祉の連携もまだしっかりできているとは言えないし、何より大事な就労とその定着については大きなハードルが立ちはだかっています。発達障害者支援を本気で考えようと思えば、ライフステージに沿った、本当に幅の厚い、すそ野の広い知識と発想と行動力が必要になります。

 しかし! 幸い、私にはAS(アスペルガー症候群)の知識、欲、ADHD(注意欠陥多動性障害)の爆発的な機動力とヒラメキがあるので、それこそ特性の長所すべてを振り絞り、社会のお役に立つ何かを考えてゆくことはできるのかもしれません。

 人と違うからこそ出来る何かを目指し、へんちゃんはこれからも走り続けます。

(笹森さんの連載は今回で終わります。来月からは川北浩之さんの「六畳半の宇宙から」を掲載します)


ささもり・りえ  1970年、神戸市生まれ。2003年、発達障害の診断を受ける。05年、「NHK障害福祉賞」第1部門優秀賞受賞。NPO法人特別支援教育ネットワーク「がじゅまる」理事。旧姓の逸見から「へんちゃん」と呼ばれる。著書に「へんちゃんのポジティブライフ」(明石書店)。神戸市在住。