ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
きょうだいとして 支援者として…2

きょうだい支援との出会い
同じ立場である自分こそが(2015/12/21)

田中 一史



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1泊キャンプできょうだい児とレクリエーション活動に参加する田中さん(2008年、京丹後市弥栄町の丹後あじわいの郷)

 児童精神科医になってからは、医学的知識だけではなく、たくさんの自閉症児とその家族、支援者から自閉症や発達障害について学ぶ毎日でした。教科書などで勉強はしていたものの、実際のケースは障害特性も環境も家族のありさまも人それぞれで、型通りの診断や通り一遍の助言では役に立たないことを痛感しました。まだまだ支援者としては未熟な自分にできることがあれば何でもしたいと考えていたときに、京都府自閉症協会を紹介され、ボランティアスタッフの一員として活動に参加する機会をいただきました。

 私が関わることになったのは、偶然にも「なかよし会」というきょうだい児を対象としてレクリエーションを行う集まりでした。この集まりは14年前に、京都府自閉症協会の保護者と専門家、学生ボランティアが中心となり、ふだん障害のある子のために我慢しがちなきょうだい児のために、自分たちが主役となって楽しめる場と、きょうだい同士が交流できる場を作ろうということで発足したものでした。デイキャンプなどで一緒に遊んでいると、子どもたちはここぞとばかりにスタッフに甘え、たくさんのわがままをぶつけてくれます。私もすぐにもみくちゃにされるようになりましたが、彼らが子どもらしさを見せて関わってくれること、そして解散の時に迎えに来る親に見せる真面目な顔との落差から、彼らと同じきょうだいである自分こそがこういった場を作っていかないといけないと思うようになりました。

 この集まりに参加するようになってから2年目、私がきょうだい支援にさらに深く関わることにつながる出来事がありました。アメリカのきょうだい支援プロジェクトのディレクターであるドナルド・マイヤー氏が自閉症協会全国大会で直々にシブショップというきょうだいのためのワークショップを開催され、運良く訓練生かつ成人きょうだいとして参加することができたのです。このワークショップの素晴らしいところは、参加者が楽しいレクリエーションから自然にきょうだいのことについてさまざまな思いを話し合えるようにプログラムされていることで、私も「初めて」きょうだい児という立場で自分のことを振り返り、これまで言葉にしたことがない思いについて話すことになりました。

 この時まで、私は自分の弟のことで深く悩んだり、親に対して不満を持つようなことはあまりなかったのですが、参加者が語るそれぞれの障害のある兄弟のことやさまざまな思いを聞き、自分の経験や感じたことを話していくうちに、今まで自分の中で言葉として整理されてこなかった気持ちが落ち着いていくような不思議な感覚が広がっていったことを今でも覚えています。

 この経験を得てから、私はなかよし会を「きょうだい同士が出会い、楽しみ、そしてお互いの思いを聞いたり話したりできる場所」にしたいとの思いをさらに強く持つようになりました。3年目にはなかよし会の代表の立場になり、「きょうだい支援」も自分のライフワークの一つに加わることになりました。


たなか・かずし
1974年、大阪府生まれ。
2000年、京都府立医科大卒。京都府立医科大付属病院小児科などで勤務後、06年から京都市児童福祉センターなどで児童精神科医師。
08年よりきょうだい児支援の会「なかよし会」代表。