ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
きょうだいとして 支援者として…6

親なきあとを見据えて
支援受け暮らす姿を見守る(2016/04/18)

田中 一史



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引っ越しの間に大阪の実家で弟

 今年になって私は、両親と弟を私の家族の近くに住まわせるという決断をしました。

 子どもの時からずっと、親が年老いたときには私が面倒をみること、そして同時に弟の面倒も見ることになるということは意識してきましたが、実行に移す覚悟を決めるまでにはかなりの葛藤がありました。

 親なきあとに障害のある兄弟姉妹の面倒をみるべきか、あるいはどのように関わればいいのかということは、ほとんどのきょうだいにとり大人に近づくにつれて重くのしかかってくる問題です。親や周りの人たちに、兄弟姉妹の世話をするようにプレッシャーをかけられている場合はもちろん、「面倒をみなくていい。自分の好きなように生きていけばいい」と理想論を言われるばかりで現実と本音では自分にどうふるまってほしいのかわからないという不安を抱えつづけるという場合もあります。

 私の親も、以前は私に対して弟の将来の生活について話題にすることはほとんどありませんでした。私も、実際自分が何の知識もなく何ができるのかもわからなかったので、あえてそのことに触れないまま過ごしてきました。

 親なきあとのことをきちんと考えようと思えるように私を動かしたのは、障害のある人の支援者として得たたくさんの知識と経験、そしてきょうだい会で聞くことのできた先輩きょうだいの経験談でした。

 以前は養護学校を卒業した後の知的障害の人の生活について全く知らず、親なきあとは私が引き取って生活させるしかないと思い込んでいましたが、今は入所施設やグループホーム、通所施設といった場所や、ガイドヘルプ、ショートステイといった福祉サービスについて詳しく知ることで、支援を受けながら生活するということのイメージが作れるようになりました。

 障害年金や成年後見制度についても、字面だけではわからない生きた情報をきょうだい会で聞く経験談から得られ、弟の将来について親と対等以上に話せるようになりました。

 障害のある人の保護者にとっても、自分たちなきあとの事は気になって情報を集めていることでしょう。しかし得た情報についてきょうだいには話しにくいのではと思います。私は、もっと支援者が親なきあとの生活まで見据えた話題や情報を発信し、早くから親ときょうだいがこのことを話し合える雰囲気をつくるべきだと感じています。

 いよいよ今月から、自分が中心となって親と弟を近くで見守るという生活が始まります。知識や経験に後押しされて決めたこととはいえ、まだまだ考えないといけないことや不安はたくさんあります。私の妻や子どもにとって、障害のある私の弟が近くにいることをどう思うようになるのかも気になりますし、一方で弟の生活に私の知識が生かせることが楽しみでもあります。いろいろ思うところはありますが、気負わず家族や支援者を頼って無理のない生活を組み立てていきたいです。

 そしてこれからも、きょうだいとして、支援者として、障害のある人とその家族の幸せを考え、私が関わる多くの人に自分の思いと経験を伝えていければと思います。


たなか・かずし
1974年、大阪府生まれ。
2000年、京都府立医科大卒。京都府立医科大付属病院小児科などで勤務後、06年から京都市児童福祉センターなどで児童精神科医師。
08年よりきょうだい児支援の会「なかよし会」代表。