ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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障害のある人の就労支援(上)


対人関係の苦しさ 話し合いで克服
ひたむきな姿勢、職場に好影響


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車検整備の仕事に励む精神障害当事者の男性。仕事に取り組む姿勢は他の従業員の模範になっているという(京都府久御山町)

 シンポジウム「障害のある人の就労支援」が3月23日、京都市中京区の京都新聞文化ホールで開かれた。京都新聞社会福祉事業団が主催、山城障がい者支援ネットワーク「はちどり」が共催した。「福祉のページ」では2回に分けて内容を紹介する。

 「はちどり」は企業、福祉、医療、行政、教育などの団体が、垣根を越えそれぞれの特性を生かして障害当事者や受け入れる側を支えるネットワークで、2009年4月に発足し、現在18団体が参加している。シンポジウム前半は、就業を果たした発達障害の当事者と、雇用する側の企業経営者らが実践報告した。

 宇治市などで生花店を営む有限会社「シオン」で働くアスペルガー症候群の30代男性は、支援を受けて成長した自分自身について語った。男性は人と接することが苦手で、大勢の中では強く緊張するなどの症状がある。高校を卒業して引きこもりなどの後、「はちどり」のネットワークを通して支援センター職員の紹介で現在の会社にアルバイト雇用された。

 仕事は仏壇用の花束作り。年々腕を上げ、1日に作る花束の数も今では160に達する。ただ対人関係では問題が生じる都度、社長、次長、支援センターと保健所職員が集まり一緒に解決策を考えた。その中で▽次長との交換日記▽仕事で感じたことの振り返りノート─などを行うという対策をとった。

 また一人で作業できるよう勤務時間をずらしてもらったり、複数の中で話をするトレーニングの場を作ってもらったりした。社長とは仕事を離れてサイクリングに行ったこともあり、結果、約30人の集団の場である新年会にも出席することができた。前向きにチャレンジする姿勢が身に付き、今では何かやって失敗しても「経験になった」と割り切れるようになり、考え方も柔らかくなったと、自分を振り返った。

 「シオン」次長の林由美子さん(39)は、男性がこの日のシンポで多くの人の前で無事話をできたことに「感動しました。最初は『受け入れ態勢もないのに』と大反対したのですが、(青年に)出会った時に『一緒に働きたい』と思い、受け入れ態勢は一緒に考えていけばいいのではないかと考えるようになりました。『はちどり』という大きなネットワークのおかげです」と述べた。

 京都府久御山町の自動車販売と整備の会社「新晃自動車工業」社長、辻尚宏さん(47)は「昔は、障害者を雇用するなんて私の会社と関係ない話だと思っていました」としながらも、2年前に統合失調症の青年を受け入れた。辻さんは受け入れる際、▽腫れ物に触るような扱いはやめよう▽コミュニケーションを取りづらいのでできるだけ声をかけてやっていこう─と社員と申し合わせた。その後男性が体調を崩したり、同世代の友人と比べて自分の境遇に迷いを生じたりして「やめたい」と言った時には「最後までやりぬかないとだめだ」と説得する一方、辻さん自身も考え直し、仕事が覚えられるようにと一人の教育担当制から、車検整備の作業ごとに教育担当を置くように配慮したと語った。

 素直さやひたむきさは他の社員にも良い影響を与えているといい、「『結婚してマイホームを持つ』という彼の夢を応援していきたい」と結んだ。