京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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●見る・聞く・訪ねる
大震災の被災地
救援金15億9200万円京都新聞社会福祉事業団に寄せられた東日本大震災の救援金(義援金)=15億9200万円=は、どのように被災者のために役立てられたのか、被災地では今どのような支援が求められているのか。10、11の両日、大津波による甚大な被害を受けた宮城県・山元町の仮設住宅、福島第1原発事故で放射能被害を受けている福島県・飯舘村などを当事業団の増田正蔵理事長らが訪れた。当事業団の被災地視察は3度目となる。 温かな気持ち支えに
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「被災者の皆さんに笑うことの大切さを教えてもらった」。仮設住宅の集会所に張られた激励やお礼状のはがき |
また、今年になって、ようやく自宅を新築したという女性(65)は「手元に残っていた貯金全額と義援金で建てた。その家には皆さんの温かい気持ちがこもっている」と話す。
ただ、仮設住宅で暮らす被災者たちは、義援金支援への感謝の思いを抱きながらも、もどかしさは隠せない。「どこのどんな方に義援金をいただいたのか、お礼の言葉が伝えられないのが申し訳ない」。仮設住宅の被災者からは「義援金を寄せていただいた京都や滋賀の方々に感謝の気持ちを(京都新聞紙面を通じて)伝えてほしい」と託された。
この日の集会所で、イチゴを模したアクリル毛糸製タワシづくりに励んでいた高齢の女性は「一歩ずつ前に進もうと思います」と前を見つめた。それでも仮設住宅の中に引きこもる高齢者は多く、「いまは精神的な支えが必要なのでは」と気遣う声もあった。
集会所の書き込みボードには「マジックショー開催」などの催し物の日程が記されていた。岩佐事務局長は「被災者は手品やモチつきなどの慰問に気持ちを和ませている」とボランティア訪問に感謝する。
一方、隣県、福島県の飯舘村では原発事故による放射能汚染の難題を抱えていた。村農業委員会会長の菅野宗夫さん(61)はNPO「ふくしま再生の会」を基盤に専門家、ボランティアたちと力を合わせ、飯舘村内の農地、山林、地域の再生に取り組む。「地域、家族を分断する放射能汚染の実態、そして除染実証実験などプロジェクトの取り組みをもっと伝えたい」と活動への資金支援、協力も企業や個人に呼び掛けている。
相馬市のおひさまプロジェクト代表の大石ゆい子さん(56)は「地域再生に向け全国の人々との交流やネットワークができれば、勇気づけられる」と他府県の人々との連携による支援を模索する。
被災地ではお金や物の不足からは少しずつ改善されてきてはいるものの、家族や友人、それにコミュニティーを奪われた被災者の「心の傷」は簡単に癒えるものではありません。また、長引く仮設住宅暮らしでは新たな問題も起きています。
それでも仮設住宅の集会所で出会った被災者は明るく振る舞い、私たちが滞在している間、笑い声が絶えませんでした。それどころか山元町では「近畿地方が地震の時には、私たちがボランティアとして駆けつけなければ」とか「備えだけは十分にしておいてください」という言葉をいただきました。被災地の人々は、自分たちの体験を生かして、支える側にもならなければと考え、そのことがまた、自分自身を支えることにもなっていると感じました。
今回の訪問では被災地を支えるのは、必ずしも義援金や物資の援助だけではないことを知らされました。学んだのは「お互いに支えあうことの大切さ」という福祉の原点でありました。
京都新聞社会福祉事業団は、これまで計6回にわたり総額15億9200万円の救援金(義援金)を、主に宮城、福島、岩手の被災3県に寄託。被災者には、市町村を通じて届けられている。また同事業団は第29回京都新聞チャリティー美術作品展での寄付金の一部を原資に京都府、滋賀県における被災者支援プログラムにも取り組んでいる。