ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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障害のある人の就労支援(下)


職場の雰囲気も良く「生産性上がった」
職種越えたネットワーク、成果生む


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ネットワークとしての「はちどり」について活発な意見が交わされたシンポジウム会場(3月23日、京都市中京区・京都新聞文化ホール)

 宇治市を中心にした山城地域で、企業、行政、教育、福祉など各団体がそれぞれの特性を生かして障害者の就労につなげるネットワーク「はちどり」。その役割と今後の展望についてシンポジウム「障害のある人の就労支援」(3月23日、京都新聞文化ホール)後半ではパネルディスカッションが行われた。これに先立ち府立洛南病院院長の山下俊幸さん(58)と、しょうがい者就業・生活支援センター「アイリス」(長岡京市)センター長の内田依子さん(43)が実践報告した。

 山下さんは医療者の立場で報告。当事者の中には10代後半から20代で発症し働いたことがない人もおり、体験できる場が得られるという意味で、この種のネットワークは貴重だと評価。また病院では職員は支援者だが就労の場では人間関係が上司、同僚となる。「私たちも『その人と一緒に仕事をする』という視点を持って、就労支援に取り組んでいます」と語った。

 内田さんは、宇治市を中心にする「はちどり」と同種のネットワークを乙訓地域にも実現しようと、2009年4月に長岡病院(長岡京市)を運営する財団法人長岡記念財団を母体に「アイリス」を立ち上げた経過や、3月の「障がい者ワークフェアin乙訓」などの活動について説明。また企業経営者に関わりを深めてもらえるよう就労支援部会を小規模に再編成するなど、運営面の工夫も語った。

 内田さんは「『はちどり』の会議に行って和気あいあいの空気をどうすれば持って帰れるのかを勉強させてもらいました」と、雰囲気にも言及した。

 次に企業、学校、行政などの立場を代表して「はちどり」メンバーがパネルディスカッションを行った。その中で障害者の雇用によって職場の雰囲気が良くなり、結果として生産性が上がるのではないか、との論点が提起された。

 府立宇治支援学校進路指導部長の長浜香織さん(31)は、「私の仕事はまず卒業する障害当事者の行く場所探しです。本人が『働きたい』と思うのが一番大事。それを生かすために府全体にネットワークや就労支援の広がりを考えていきたい」。山下さんは「私たち医療者や支援機関の人は、企業のことをほとんど知らないものですが、それを聞けるのがネットワーク。患者さんは働くことで回復することがありますが、私たちも会社での状況が分かれば早めに支援ができるので安心です」。それぞれ教育と医療の立場から語った。

 前半で統合失調症の青年を雇用した事例報告を行った新晃自動車工業(京都府久御山町)代表取締役の辻尚宏さん(47)は「雇用や訓練の前後で会社はどう変わったか」との質問に「働くとはどういうことかを見せてもらいました。人間関係は与え合うものだとあらためて思いました」と感動を語った。これを受け、宇治市でコンビニ店を営む「小都里」代表取締役の小泉浩さん(44)は、「障害者雇用によって生産性が上がるのではないか」と問題提起。「私も半信半疑でやってみましたが、実際、従業員の行動が変わりました」と振り返った。

 最後に神奈川県の参加者から、今年10月24日に同県で第17回障害者問題全国交流会が開かれる際に「はちどり」の活動を紹介してもらおうと企画している、との発言があった。