ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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介護の現場で就労
「担い手になれる」

輝く知的障害者、取り組みは全国へ

街かどケア滋賀ネット


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湖南市の介護ホームで働く木村さん(左)

 「食器を洗うのは楽しい。掃除もしてるよ」

 湖南市の介護型グループホーム「わいわい」で働く知的障害者の木村佑介さん(28)の表情は明るい。勤務は週5日間で午前9時から午後3時まで。働き始めてもう10年近い。すっかり溶け込んでおり、ホームに入居しているお年寄りの評判も上々だ。

 「給料でCDを買ったりします。KinKi Kidsなんかが好き」と笑顔で語る。

 湖南市の特別養護老人ホームの美松苑でも知的障害者が働いている。知的障害者の種村美穂子さん(55)は主に掃除を中心に就労している。

 「お年寄りの各部屋のごみ捨て、廊下の掃き掃除などが主な仕事です。しんどいこともあるけど、楽しいですよ」と種村さん。ここに働く場を見いだして、すでに5年がたつ。「これからもここで働いていきたい」と目を輝かすように話した。

 同苑の富士原要一苑長は「種村さんはふんわりしたムードを持っておられ、お年寄りにも人気です」と語る。

 かつて知的障害者は福祉の受け手だった。福祉関係者でさえそういう受け止め方だった。だが、本当にそうだろうか。知的障害者だって担い手になれる。そう考えた人たちが滋賀県にいた。小規模介護事業所の運営者らが集う「街かどケア滋賀ネット」(湖南市石部東2丁目)で長く代表だった溝口弘さんたちだった。

 きっかけは2000年の介護保険のスタート。これを機会に障害者が介護の現場で働くことを推進しようと考えたのだ。そして滋賀県から知的障害者介護技能等習得事業(障害者向けの介護ヘルパー3級研修)を委託されるNPO法人・県社会就労事業振興センター(草津市)とともに知的障害者の就労促進に熱心に取り組んだ。

 現場をよく知る溝口さんたちが積極的に取り組み、「何人もの知的障害の方が介護現場で働けるようになった」という。努力が実り、福祉の受け手が着実に福祉の担い手になる。そんな取り組みが進み、介護現場などで働く知的障害者が滋賀県で増えている。

 「街かどケア滋賀ネット」の調べによると、現在、約80人の知的障害者が介護現場などで働いている。先の木村さんが取り組む食器洗い、種村さんの掃除のほか、食事介助や入浴介助をする人も増えてきており、その輪は確実に広がっている。「滋賀県から始まったといえるこの事業は今、全国に広がりつつあります」と話すのは、同ネット事務局員の野村祐子さん。

 現在、県内で知的障害者介護技能等習得事業を修了した人は約170人。だが、就労者は約80人だからまだまだ働く場は少ない。溝口さんは「県内には1900カ所ぐらいの就労可能な介護事業所があります。もっと受け入れて頂けたら、うれしいですね」と希望を膨らませる。

 かつて知的障害者らが資格を取っていた介護ヘルパー3級は国の方針転換で廃止となった。このため、同ネットなどでは、滋賀県に対して独自の新たな知的障害者の介護資格を要望している。そういう資格が出来れば、受け入れ先も安心して受け入れができると考えるからだ。「県、振興センター、そして滋賀ネットの三者が力を合わせてここまできました。福祉の受け手から担い手という考え方、これは福祉の助け合い、支え合うという精神にも合致します。今後も大いに発展させていきたい」と溝口さんたちは意欲的だ。