ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
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自然の中で学び 生きる力を体感
生き物との別れから慈しみ

てんとうむし幼児園


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松林の中で元気に遊ぶ園児たち(京田辺市大住)

 寒風のなか、松林の中で子どもたちの笑顔が弾け、歓声が広がる。落ち葉を集める子、駆け回る子、木の枝を持って振り回す子、松ぼっくりを並べる子。それぞれが自分のお気に入りの遊び方を知っているから目が輝いている。教えられなくても自然のなかで子どもたちはいつのまにか遊びを発見する。

 京田辺市大住の「てんとうむし幼児園」は保育目標に「自然とともに」を掲げるユニークな保育施設だ。1996年春に開園し、18年目を迎える。現在の園児は2歳から6歳までの29人。地元の京田辺市だけでなく木津川市や八幡市など離れた地域からも通う園児が少なくない。保護者が林恵子園長の「自然の中での保育」という方針に共鳴して通わせるためだ。

 林園長は新潟市で生まれ育ち、地元の保育専門学校を出てこの道に入った。縁あって京都に来て京田辺市などの保育園で働いていたが、他の保育園に通っていた自分の子どもが家に帰って来た時、晴れ晴れした顔でなく苦しげな表情が続くという事態に直面した。「子どもが明るい笑顔で通える、楽しくなれる保育園を作りたい」。そんな気持ちが強まったのが保育園設立のきっかけだった。持ち前の行動力で開園にこぎつけたのだ。

 同幼児園の周辺は自然環境に恵まれている。松林や原っぱや芝生広場などがいくつもあり、地元の人々の協力もあって、園児たちはほぼ毎日、朝の10時ごろから正午ごろまで約二時間は自然と戯れる。「楽しい」「おもしろい」「一緒に遊ばへんか」「寒くなんかないよ」。松林の中の園児たちは元気そのものだ。自然と触れ合うことで、いつのまにかたくましくなっていく。

 林園長は「この時期の子どもたちは遊びを通じて学んでいきます。自然から教わる遊びは奥が深いのです」と語る。落ち葉を例にして「落ち葉は一枚一枚、色から形から千差万別です。においもあるし、風に吹かれると音もするし、触った感じも違います。落ち葉でも遊べるし、学べるんです」と指摘する。ある意味、子どもは遊びの天才でもある。「子どもはこうした遊びを通して資質や能力を自然に伸ばして行きます。強制することも詰め込むことも要りません。自然のなかで友達と共感し、仲良くしていくことを学びます。これが大人になっても力になる、生きる力になると考えています。だから、この時期は非常に大切なのです」と強調する。

 同幼児園の自然重視のユニークさを象徴するエピソードがいくつかある。園児は「モーモー」と鳴く声を聞いて、まだ姿を見たことのないウシガエル捕りに一生懸命になった。だが、ウシガエルは用心深く結局駄目だった。結果的に「ウシガエルの親分はすごい」と園児たちは思い、思い通りにならないことが自然にもいろいろあることを学んだという。もうひとつは、ニワトリの話だ。同幼児園では4羽のニワトリを飼っていたが、そのうちの1羽、「こっこさん」が長生きして園児に特別にかわいがられていた。園児の畑づくりなどに同行するほか入園式や卒園式にも「参列」していた。だが、ついに老衰から動けなくなった。園児たちは「こっこさん」の死期を感じて泣きながら絵を描いたということだ。その翌朝、「こっこさん」は死んだ。お墓を作って埋めた時、「タマゴ、ありがとう」「いっぱい遊んでくれてうれしかった」などとつぶやきながら園児の泣き声はどんどん大きくなったと言う。園児たちは生き物には避けて通れない死があるということや慈しみを学んだという。

 林園長は「自然は偉大な先生の役割を果たしてくれます。外に出たら、一日たりと同じ日はありません。それを体感することが子どもには必要なのです」と強調し、「こうした保育園がもっともっと増えてほしいですね」と話した。