ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
見る・聞く・訪ねる

子どもの主体性重視
自立、自己実現の第一歩

言語聴覚士ら専門家が療育活動

児童デイ ころぽっくる


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療育活動に取り組む。ころぽっくるのゆったりした教室(宇治市槇島町)

 宇治市槇島町の閑静な住宅街。その一角に「児童デイころぽっくる」がある。親しみやすい二階建ての建物には発達障害、自閉症、引きこもり症状などのある子どもたちを療育する教室が四つある。ゆったりとした空間でのびのびと学ぶことが出来る発達療育の場となっている。地域の期待を担うとともに、先進的な取り組みが注目され、全国から福祉施設関係者の見学が絶えない。

 「ころぽっくる」は今から6年前の2008年、開設された。その1年前に設立されたNPO法人アジール舎が運営する。アジール舎の掲げる願いは@子どもの<まなざし>と<声なき声>を大切にしたいA子どもによる<子ども当事者主権>の扉を開きたいB子どものための<子ども基本法>をつくりたい─というものだ。それには、同法人の理事長であり、「ころぽっくる」の所長でもある亀口公一さん(63)の熱い願いが込められている。亀口さんは学生時代からこうした子どもたちの療育活動に携わってきた。大学を卒業後は乙訓地方の社会福祉施設、児童福祉施設に勤務し、経験と指導力と人柄を買われて施設長をながく勤めていたが、若い頃から自分自身が運営する療育活動の場を持ちたいと願っていたことから早期退職してこの法人を立ち上げたのだ。

 亀口さんは「子育てには『取扱説明書』はないのです。障害があろうとなかろうと、『好きなことを好きな人と一緒にする』意欲があれば、自立、自己実現への第一歩を踏み出せる」と語る。亀口さんの福祉に対する原点は「人は大切にされるべきで、効率優先のモノ社会ではなく、人間一人ひとりの心を大切にする社会の実現を目指すこと」にある。

 同法人の中軸となる「ころぽっくる」は、子どもの主体性を最も重視する運営方針が貫かれており、子どもの主体性、協調性、自律性のアンバランスを回復する発達療育を行う。亀口さんが「ころぽっくる」を開設した当初の登録児童は20人で、すべて就学前の子どもたちだったが、今は、就学前の子どもたち26人に対して小中学生は56人と小中学生の方が多くなっている。軽度の発達障害の子どもが全体の8割を占める。

 就学前の子どもたちは週1回か2回、親に連れられてやってくる。皆、楽しげだ。しかも母親たちも明るく笑顔が絶えない。午前中の約3時間、「ころぽっくる」の言語聴覚士、臨床心理士や作業療法士らとともに工夫された遊びやものごとを整理したり体系づけたりする子どもの療育支援を行っている。そのような脳の働きを「感覚統合」というが、そうした働きの向上を通して自己表現を高めていく。各教室では、子どもたちが楽しみながら学んでいる様子がうかがえる。小中学生たちは学校の授業が終わった放課後にやってくる。友達との遊びやゲームを通じてコミュニケーション力や対人関係を学んでいる。

 亀口さんは「こうした学びや訓練を通じて、大人や社会に対する安心感を得ていくのです。それに、主体的に学ぶこと、自分から課題を見つけて向かっていく力をつけていけるのです」と強調する。亀口さんが力を入れているひとつは相談業務だ。「アジール心理発達相談室」を設けており、落ち着いた雰囲気の中で親たちが相談できる。親たちの不安などを解消し、対応策を提示していくのも評判を呼んでいる。何十年とこの道を歩んできた経験が親や子どもたちの安心と信頼を生んでいるようだ。

 亀口さんは16歳以上の子どもたちに対する発達療育にも関心を強めている。「大人になるには越えていくべき壁がいくつもあります。それをひとつひとつ、主体的に越えていける力を持てるようサポートする場を作れないかと考えています」と語り、動き出せる日も近いと考えている。