ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。
見えない世界を生きる

中途失明者である松永さんは京都市在住。大きな葛藤を経て「見えないこと」を受け入れるとともに、「見えない世界」を生きる自らの体験を書きつづった『「見えない世界」で生きること』を出版するなど、「見えない世界の伝道師」を自負する人です。

松永さんには、まだまだ社会的な理解が不足し、就業面などで厳しい状況にある視覚障害者の当事者として、リアルな体験を連載してもらいます。


一緒につくる社会
当事者側からの発信を


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松永さんの願いは見えないことへの理解を、できるだけ多くの人に深めてもらうことだ。ガイドヘルパー養成研修の講師として受講者に語りかける(京都市南区)
 僕は、この原稿を、パソコンを使って書いている。特別なパソコンではない。普通の電器屋さんで購入した普通のノートパソコンだ。もちろん、そのままでは使えないので、画面の文字を音声で読んでくれるスクリーンリーダーというソフトを入れてある。このソフトが、3万円くらいする。3万円で使えるようになるのだから、決して法外な値段でもないと感じている。マウスは、外してあり、すべてをキーボードを使って操作する。と言っても、僕はメールをすることくらいで精いっぱいだが、全盲でも達者な人は、インターネットの閲覧から、ネットショッピング、ワード・エクセルまで使いこなす。

 キーボードのホームポジションに指を置く。FとJには、触って分かるしるしがついている。電話機の5の数字についている点と同じで、触覚で確認できるようになっているのだ。見える人も、見えない人も使える、ユニバーサルデザインだ。松永と書く場合、まず、Mのキーを押す。その瞬間、画面にはMが書かれているのだろう。僕のパソコンは、「エム」と読んでくれる。次に、Aのキーを押した瞬間、画面は「ま」に変わるはずだ。僕のパソコンは、「ま」と読んでくれる。耳で確認しながら書いていくのだ。「まつなが」と書いて、漢字変換するために、スペースキーを押せば、「松の木のマツ、永いのエイ」と説明してくれる。そこでエンターだ。書いたら、メールで送信する。あて先、件名なども、音声で読んでくれるので問題はない。

 この1カ月に1回のコラムを、僕はとても楽しみにしている。たくさんの人が読んでくださり、僕たちへの理解が進むかもしれないと思うと、わくわくする。書きたいことが多過ぎて、毎回悩んでしまう。僕たちが新聞に登場するのは、何か行事があった時にインタビューを受けたり、交通関係などの社会的問題で記事になったりで、受動的な場合が多い。自由に発信できる機会は少ない。ひょっとしたら、社会の認識が遅れてしまっているのは、見えない人の情報を、見える人だけで発信しようとしてきたことも一因なのかもしれない。見える人も、見えない人も、聞こえる人も、聞こえない人も、歩ける人も、歩けない人もいろんな人が同じテーブルで話し合えば、きっと一番すてきな答えが出るだろう。

 最近動きだした、国の障がい者制度改革推進会議は、24人のメンバー中半数以上が当事者やその家族らしい。そのメンバー構成を知っただけで、希望を感じる。国連の障害者権利条約は、「nothing about us without us」という「自分たちのことは、自分たちで決めよう」という理念のもとにいろんな当事者が参加して決められたという。確かに社会は成長している。白杖を持った新聞記者や、サングラスのニュースキャスターが活躍する日も、そう遠くないかもしれない。僕も、ニュースキャスターにでも応募しようかな。まずは、テレビ映りの良さそうな服を探さなくちゃ!

まつなが・のぶや氏
鹿児島県阿久根市出身。佛教大学社会福祉学科卒業。52歳。京都府視覚障害者協会理事。著書に『風になってください』(法蔵館)、『「見えない」世界で生きること』(角川学芸出版)。