ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。

ふくしナウ

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

若年性認知症
人生再構築の支援を



 若年性認知症とは、「65歳未満で発病した認知症」を指す言葉です。発病年齢による区分ですから、若年性認知症という特別な病気があるわけではなく、原因もアルツハイマー病、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などさまざまです。


 病気の症状は、65歳以上で発症する認知症と大きな違いはありません。しかし、現役世代の発病であることが若年性認知症固有の問題を生みます。今、家族の経済的支柱である50歳の男性が認知症を発病したとします。彼は自分の病気と同時に、仕事や家族の行く末とも向き合うことになります。家族もまた本人とどう向き合い、自分たちの暮らしをどうしていくのかという問題に直面します。彼も家族も、人生の再構築に向けた集中的な支援を必要としており、これが第T期「ケアへの導入期」のテーマです。

 家族の心理状態が本人にも大きく影響しますから、本人支援とならんで家族支援が重要です。この病気についての十分な知識と情報の提供は、家族にとっての道標になります。そして経済支援がカギを握ります。若年性認知症の大きな問題は、病気の進行に伴い休職や退職を余儀なくされ、生活に直接支障をきたすことです。傷病手当金、障害年金、生命保険の高度障害といった一連の経済的手当が暮らしを支えます。

 若年性認知症の全体像を図のような座標上に表現してみます。若年性認知症の課題は、2つの段階でケアが欠落していることです。1つは、早期に診断されても、その段階に適切に対応できるサービスがないことです(第T期)。もう1つは、若年性認知症に対するケアが未確立なために、進行期の激しい介護抵抗に対応できる施設が少ないことです(第V期)。そのため、介護サービスが利用できず疲弊やストレスが深刻化した介護者がうつ病などを発症するケースも少なくありません。

 こうしてみると、若年性認知症問題は認知症ケアの試金石と言えるかもしれません。若年性認知症問題を解決すれば、認知症問題・本人支援・家族支援・制度の問題の多くが解決可能になります。京都ではここに焦点をあてた本格的な動きが始まりました。昨年の京都式オレンジプランに続き、この3月には「若年性認知症京都オレンジガイドブック」が公表され、最初の一歩を刻みました。同時に開設された認知症ポータルサイト「きょうと認知症あんしんナビ」からどちらもダウンロードできます。(http://www.kyoto-ninchisho.org/)(京都府立洛南病院副院長 森俊夫)