ともに生きる・福祉のページ
京都新聞掲載「ともに生きる」「福祉のページ」の記事をネット上で紹介するコーナーです。

ふくしナウ

「ともに生きる」をテーマにした福祉コラムです。

おむつフィッター
「広い視点」でケアを



 私は排泄(はいせつ)用具の情報館「むつき庵」で排泄ケアについての相談を受けています。来館者は介護をしている家族や介護士、看護師などいろいろですが、ともするとケアの困りごとを目先の対応で済ましているのを痛感します。例えば足腰が弱った高齢者がトイレに行くまでに尿漏れがあれば、おむつの使用で済ませてしまうといった具合です。  しかし大切なのは、「なぜ尿漏れが起こるか」を突き止めることです。病気が原因のこともあれば廊下に手すりが無いから歩きにくいなど、その原因はさまざまです。しかしともすると深く探らずにその場をしのいでいることが少なくありません。


おむつフィッター研修でおむつのあて方などを説明する浜田さん(中央)
 ただ、これは無理もないことと言えます。なぜなら介護士は介護のプロではあっても病気や薬の専門家ではありませんし、看護師も手すりなどの福祉用具に詳しいわけではありません。

 そこで「おむつフィッター研修」を始めました。これは決しておむつに詳しい人を養成するためのものではありません。ケアを受ける人の視点に気付くことや、医療的な知識、福祉用具のこと、体の動かし方や住環境を整えることなど、広い視点で排泄ケアを考えるものです。

 開催当初は受講希望者があるのだろうかと心配でした。しかしその予想を裏切り、北海道から沖縄まで全国各地から受講生が来てくれています。しかも看護師、介護士のみならず、一般の方から医師や理学療法士、薬剤師、おむつメーカーなどさまざまな職種の方が参加してくださり、修了生は現在3700人を超えています。何よりうれしいことは、彼らがそれぞれの仕事のなかで素晴らしい実践を重ねていることです。そしてその活動から私たちが学ばせていただくことは少なくありません。

 ある特別養護老人ホームでは全員がおむつを装着し、その不快さや動きにくさに気付き、そこから一人ひとりを丁寧に観察しました。それによりおむつ使用が激減し、認知症の方が落ちついてこられたそうです。またある病院では排泄相談窓口を開設して、地域の方々のいろいろな相談に答えています。そのことで病気を早く見つけることに役だっていると言います。

 排泄ケアは単に下の世話ではありません。食べることや動くことなど暮らしの全てから考えていくべきことであり、暮らしを変えるケアなのです。超高齢社会の今、このような視点で排泄ケアを考えていくことの重要性を痛感しています。

(排泄用具の情報館「むつき庵」代表・浜田きよ子)